「ツツ」という音

【ツツ考】[001]___

◇「ツツの役割

 かつて「ツツ」という語が有りました。日本語に、と言うより人類語と言った方が良いかも知れません。ツツという語は、次の様な概念を表す時に使われる声音です。

  1. 時間(経過、順次)
  2. 空間(広がり、面。また、集まり。)
  3. 液体の流れ(潮、川、水、血)
  4. 動作(移動、行為)
  5. 自然現象(動くもの全般)
  6. エネルギー

ツツは「動き」を表わす音ですが、この語自体は動詞ではなく、名詞の前後に付いて「時・広・動」を表すもの全般に使う語でした。

▽ちなみに。
ツの音が一つで、ツ・メリ「止め」、
ツが二つで、ツツ・メリ「進め」になります。
停止がツ、動作がツツ、これは人類語です。

 

 

◇「ツツの音転

 言葉の役割は何らかの意思を伝えるためにあります。また、複数の対象物を呼び分けるため、あるいは特定の対象物を示すため、基音に少しの変化を加えることから、音の多様化が促進されていったと思われます。

同じモノでも、用途や役割などに僅かな違いが生じてくると言語音にもそれが反映され、音はますます複雑なものとなっていきます。
ツツのように、使われる場面が多岐に渡る語は尚更であり、枝分かれを重ねて音の種類が広がってゆく。

文字が使われるようになると、ツツ及びその転化音にも字が充て嵌められ使われる。或るものは訓書き(表意文字)、或るものは音書き(表音文字)で音訓入り混じって表わされるが、この書き分けに付いて明確な決まり事もないので、少々混乱するが見ておく必要があります。

 

*まず「ツ」という音は、次の様に転化する。

  • ツ→ヅ→ヌ→ル。
  • ツ→フ→ブ→ム、また、ツ→フ→ウ。
  • タ行音の他の音。
  • サ行音。

*いくつか例を挙げると、意味を伴った文字として、タツ(立)、ツフ(飛)、スス(進)、セセ(瀬々)、ルル(流々)、テル(照)、ツツ(筒、突)、などがあります。

*ツツがルル→ルウ→リュウ、の音にもなる。リュウ(龍)もまたツツから出来てる語なのです。

*また、ツツ・キ(突き)、タタ・キ(叩き)、ササ・リ(刺さり)、トオ・リ(通り)、といった語にもなります。

*「ツツキ」触れる。さわる。モノとモノが接触する。ツツキ→タッチ(touch)。
「ソタタキ」優しく触れること。「ソ」は、軽く、そっと、の意。ソツト→ソフト(soft)。

*意味は伴わずツツ(またその転化音)に仮名として充てた字としては、チ(千)、テン(天)、ダン(段、断)、といったものがある。

勿論これはほんの一部である。

 

 

◇「タチとタツ

ツツの後ろに助詞が付くが「ツツ・キ」と「ツツ・ツ」の二種類がある。
万葉集》(巻一)の歌の中にある一節。
烟立竜(ケブリ・タチ・タツ)、加万目立多都(カマメ・タチ・タツ)。

ツツ・キ→タタチ→タチ(立)。上方向
ツツ・ツ→タタツタツ(竜)。移動、動作

タチは上方向、タツは移動、この状態をいい、煙が空に昇っていくさま、カモメが飛行するさまを、タチ・タツ、いう。

動詞の末音がウ列音なのは、ツがウ列音であることに依る。

さらにツツ・カという表現もありますが、カは日や面の意味を持ちます。
・日(カ)の経過、巡り、など。
・平面空間(カ)の広がり、など。

 

*「リュウという音」
音読みがリュウで訓読みがタツやタチの字には、隆、立、龍(竜)などあるが、これらの音(リュウ、タチ、タツ)は、元の音がツツだったことを示している。

*「通り」は、ツツ・キのツツがツウ→トオ、キ→リと変わり、ツツキ→トオリ(通り)、のちの時代になってトオルと動詞の姿ななってゆく。
古い時代では、トオリ・ケル、ススミ・ケリ、などの様に後ろにケルやケリを付けて動詞系として使っていた。色々な品詞の中で、動詞が生まれるのは意外に遅かったのではないでしょうか。