【ツツ考】[013]___
3-6.液体の流れ「川」
◇「ツツ・ツ・カハ(ツツ・カハ)」
「キツ・ツツ・ツ・カ」を直訳すると「液体・移動・面」ですが、水が流れる処、と言い換える事もできます。この音からキツを省いた形、これを元とする呼称は全国に多数あります。
トト・ツ・カハ(十津川)、ツツ・カハ(筒川)、タツ・カハ(龍川、達川など)、タチ・カハ(立川)、セ・カハ(瀬川)、ササ・カハ(笹川、篠川など)、サ・カハ(佐川、狭川、茶川など)、テン・カハ(天川)…。和歌山県の一部地域ではツツカに筒香の字を充てる。
また、サン・ヅ・カハ(三途ノ川)、ソウ・ヅ・カヌバ(僧都迦之婆、葬塚之婆)は、あの世に渡る川。
◇「川」と「河」
カワを表わす漢字には、河と川の二種類があります。川の音読みは「セン」ですが、元の音はツツ(「動き」の意)でしょう。転化してススやセセに変わり、さらにスンやセンになる。この中からセンが標準音として生き残った。
また「川」の字形は、水が流れる様を表わす象形文字と云えます。そして、この“記号”にセン(ツツ)の音を充てる。
一方、河はカですがカの音を持つ「可」にサンズイ扁を付けて出来ている。つまり、カの音が先に有り、これに合わせて作られた文字といえます。
- 音はツツを残し、文字は川〔セン〕を使う。
- 音はカを残し、文字は河〔カ〕を使う。
ここに、ツツ・カの音から二種類の声音・表字が出来ました。これ以外にも「江」なども使われますが、それぞれの文字に意味の違いが設けられます。
しかし、これは後の時代に作られたもので、始まりは同じ“水が流れる処”を表わすと思われます。文字の違い、音の違いは、単に部族の違いに依るものではないのか。
ツツカという音のうち、ツツを使う部族と、カを採る部族があり、各々が自分達が使う音と文字を用いた、という事でしょう。
◇「スンガイ」
インドネシア語で川をスンガイ(sungai)といいます。この音は、ツツ・カ→スス・カィ→スン・ガイ、と転じて出来た音とみて間違いないでしょう。
この語は川そのものを表わす普通名詞です。大陸で使われる語、セン(川)と、カ(河)に分離する前の、元になる音です。
日本語の場合、川はカ(カワ)の音を採用しているので、ツツカは筒川など川の固有名として使われます。ただし、日本も古くは川をツツカと言っていた時期が有ったでしょう。
◇「三途ノ川」
あの世へ行く時に渡る川を「サンヅの川」といいます。この名は、ツツ・ヅ→サン・ズ、と転じた音と見て良い。
また、「ソウヅカの婆〔ババ〕」という語があります。三途の川に有る渡し場をソウヅカといい、そこに居る老婆の事となってますが、このソウヅカのソウも、ツツ→スス→ソウと移った音でしょう。
さらにカワ(川)を表わす最初の音であるカツカ(面)が、→カヅハ→カヌバと転じ、ソウ・ヅ・カノバになる。この音に「僧都迦之婆」また「葬塚の婆」の字が充てられた。
よって、婆の字は単にバの音に充てただけ(仮名文字)であり意味は伴わない。ところが、後の時代になって「お話」として作られる過程で、字義を持ち出し、渡し場にいる老婆として使われる様になる。しかし「三途の川」「ソウヅカの婆」の元は、共に川を表わす音でした。
- ツツ・ヅ・カ→サンズ・カワ。
- ツツ・ヅ・カツカ→ソウヅ・カノバ。
*この川の渡し舟に乗るには無文銭が六枚(六文銭、また六連銭)が要ったという。だが、この設定は硬貨が造られて以降の事です。その川の歴史から見れば、最近できた“船賃制度”、といえますね。
では何故、無文銭や六文銭といった銭なのか? 恐らく、何らかの音が先ず有って、その音から連想して作られた話でしょう。その音と此の銭が、関係してる表記だったと推測されます。
※ムモンセン辺りの音が怪しい。(ンキツ・ツツ→ムミヌ・セセ→ムモン・セン、と転じたか。)
*結界の川を云う二つの名称、これらを見ると、ツツ・ヅ・カの音を元とする「三途川」より、ツツ・ヅ・カツカを表わす「葬塚の婆」の方が、より古い言い方だと考えられます。
◇「外国のツツ川」
*「ライン川」
この音の成り立ちには、二つのルートが考えられます。
*「アマゾン川」
アキ・ツツ→アミ・ヅン→アマゾン。
アキがアマになるのはアキツ島がアマツ国になるのと同じ音転である。
*「ミシシッピ川」
キツ・ツツ・ツ・キ→ミツ・シシ・ツ・ヒ。
北米大陸の先住民族が使っていた語。ですが、白人が耳で聞いた音、また彼等にとって発音し易い音になっている可能性が有ります。
◇ここまで見て来た此れらの音と、意味する対象物の類似性を、偶然の産物として処理していいものでしょうか。とてもそうとは思えません。
川を表わす時、「キツ」「ツツ」「カ」といった音は、そこ此処の言語に潜んでいます。もはや人類語と云っていいでしょう。