「ツツ」這。鼓。飛。

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【ツツ考】[019]___
 ツツカ

◇「

 筒木宮に行ってしまって戻って来ない石之日賣に対して、大雀(仁徳)は舎人・口子臣を伝令使いとし、迎えに遣り「何故、帰ってこないのか。何をしているのか。」と問うた。

これに対し日賣は答えて「いえ、大意は有りません。ただヌリノミが奇異〔けったい〕な虫を飼っていると聞いたので、見に来ただけです。」と、次のような事を言います。

 《仁徳記》
  奴理能美 之所養虫
  一度 爲匐虫
  一度 爲鼓
  一度 爲飛鳥
  有變三色 之奇虫

  看行此虫 而入坐耳
  更無異心

 

 ◯ヌリノミ、これ養いし虫
  一度〔ひとたび〕は、ツツカ(匐虫)為し、
  一度は、ツツミ(鼓)為し、
  一度は、ツツキ(飛鳥)為す。
  三色〔みぐさ〕に変わる、これ奇しき虫有り。
  此の虫を看(見)に行かんと、して入り坐ましじ。
  異〔あだ〕し心、更に無し。

 

匐虫]ツツカ。⑴ 幼虫。⑵ 農民。平地(土中)で作業する者。◇ 匐虫を「はうむし」と読み下していたのでは、これを書いた人の意図が伝わらない。這う(匐)はツツであり、虫は総じて「カ」という。よって、這う虫をツツカという。亦名ゾゾムシ。
別の語で人工的に造った平地をツツカといい、其処で野良仕事をする者を指す。

また、虫はムシと云いますね。この音はツキ→ブキ→ムシと移ったものであり、ここではツキ(の人)の意も含まれているのかも知れません。

]ツツミ。⑴ 繭。⑵ 族長。垣で囲まれた屋敷(地上)で住まう者。◇繭にくるまれた幼虫はツツミ(包み)ですが、ここでは同音の鼓の字を充てる。また、集落の長〔おさ〕をツツミといっており、ずっと後代にはこの音に堤や堤下〔ツツミモト〕といった文字も充てる。

飛鳥]ツツキ。⑴ 成虫。⑵ 大王。高台の大宮(天空)に君臨するモノ。◇「飛ぶ」という語はツツ→ツブと転じてできた言葉であり、鳥の字は鳥類だけを言うのでは無く、生き物全般(キ)を指します。

よって、ツツキは「飛・鳥」の表記になります。王城の地もまたツツキといい、大王〔オホキミ〕は別名でツツ・ツキ(スベラキ)という。

*ツツという語は、移動、広がり、覆い、など様々な使われ方がありす。この“三色之奇虫”で使うツツの音は、各々二つの意味を含ませた諷言〔なぞらえごと〕といえるでしょう。

 

▽ちなみに。
「有變三色 之奇虫」と書かれている行ですが、「異」の字を入れて「有變三色 之奇虫」とするのが良くはないか? この方が一行目と並びが揃い、全体のバランスもとれるように思います。

 

 

◇「新勢力」
恐らく元は農民だった。その息子が一代で或る地域の有力者(豪族)になった。品陀和氣(応神)である。その勢力はますます激しく領地を拡大させていき、遂に中央までも制覇した。

そして、その嫡子が今は大王になっている。大雀(仁徳)である。この連中がやって来るまでは、広くこの辺り一帯の支配者(王)は筒木(木津川西域)に大宮を構える一族の首領だった。

石之日賣の心の内には『世が世なら、お前如きが私を妻になど出来はしない。この成り上がり者が。』という憤懣が渦巻いていた、とすれば…。それが此の虫の話に(精一杯の厭味として)表れているとは云えまいか。

石之日賣の父・葛木之曽都毘古のソツビコという名はサチヒコとも発音される。武内宿禰の子に葛城長江曽都毘古の名もあり、これらは個人の名ではなく、ツキツキから転じた音と思われます。(ツキツキ→スチブキ→サチビコ)

アキツキ(王)と成るべき父が、今はツキツキ(仕える者)と呼ばれている、その事にも口惜しさを感じていたのかも知れません。

石之日賣の、その時代背景にそぐわぬ言動は、彼女の内にある自尊心に因るものからと考えれば、腑には落ちる。

 

▽ちなみに。葛城のカツラ・キという音は、村(カムラ・の地)、首領(カシラ・の人)、などに充てた文字であり普通名詞です。よって、地名としては何処にでも有り得、大阪の南にある葛城だけを指すものでは有りません。