「ツツノキ」凄力

【ツツ考】[023]___

◇「エネルギー
 誰の意思によって動いているのか、なぜ動いているのか。日常の生活の中で、余りにもありふれているにも関わらず、誰も知らない。

  • 生命の活動:心臓の鼓動、湧き出る意識。草木の発芽と成長、その盛衰。
  • 自然界活動:繰り返される日と月の動き、風雨、潮流、季節の移ろい。炎〔ホノオ〕なるもの。

これらを太古の人は「ツツ・ヌキ(動きを司るモノ)」の仕業と考えたのでしょう。そして、実体の無いモノに、その姿を創作し可視化する事を、人類はずっと行なってきました。

 

◇「スサノヲ
 最大級のツツ・ヌキを表わす音がスサノヲです。ツツ→スサ、(ツキ→)ヌキ→ノヲと移ります。この呼称は色々な意味を持っています。

古事記日本書紀に、スサノヲという名が登場すると、その場面や状況が違っても、全てを同じ神として扱い、繋げて物語を作ってしまう。だから話が混乱するのです。それぞれ別の働き、異なる存在として捉える必要があります。

  1. 水流」筒之男ツツノヲ伊邪那岐が禊をした時、水の動き(潮流、川の流れ)から生まれたスサノヲ。
  2. 自然界エネルギー」轟きトドロキ。あらゆる自然災害(台風、地震津波など)。高天原で狼藉をはたらくスサノヲ。
  3. 武人」経津主フツヌシ。筒之男ツツノヲ。ヲロチを退治した勇猛で強い戦士のスサノヲ。
  4. 首領」皇スメラキ。須世理比賣の父としてのスサノヲ。ツツヌキ・カツキ→ツブラミ・コツト→スメラミ・コト、と音が移る。

 

*小さな水の流れをセセラキといい、池や湖の岸に寄せる細かな波をササナミという。海岸に打ち寄せる波はツツナミといい、水位の上昇により押し寄せる水はオホ・ツツナミ(大津波)です。これらは全てツツ・ヌキが元の音であり、意味は「動く水」を表わします。

伊邪那岐が禊をした際、左目から天照大御神が、右目から月讀命が生まれる。鼻を洗〔スス〕いだ時に須佐之男命が成った。記紀ではそう言います。

確かに、天照大御神と月讀命は、伊邪那岐の眼から生まれたのでしょう。しかし、須佐之男はちょっと違う。

須佐之男伊邪那岐の身から成ったのではなく、禊をするその“水の流れ”に成ったキ(神)=ツツ・ヌ・キなのです。海や川の水を動かすエネルギーであり、微小だが鼻水もまたこれに含まれます。

 

*或いは、この流動神も伊邪那岐によって出現したものか。そういえば、伊邪那岐はかつて海に矛を差し下し掻き混ぜた事がありました。

この時の副産物として潮流というものが生じてしまったとすれば、その神である須佐之男は、紛れも無く伊邪那岐が造り出した子といえます。

また、矛の刺激によって生まれた事により、激しい戦闘員・ツツノヲ(筒之男、経津主)にもなっていく。
・・・話としては面白いでしょ。話としてはね。

本当は、潮流と戦闘員は別の神。
禊で成ったのは「水流」を意味するツツヌキ。
戦うのは「武人」を表わすツツヌキです。

この二つは違うツツヌキなんですがゴッチャになって、例えば、住吉大社などは海に関する神を祀る社だっのが、何時の間にやら戦いの神としても扱われます。

昔(古代)の人も、本当のところは判らないんだと思う。ただ、ハッキリしてるのは、両方ともツツヌキと呼ばれる、ということです。

 

◇自然界には様々なツツ(運動)エネルギーがあります。不安定な状況があれば、安定状態にする現象は至る所で発生します。これは単なる自然の営みに過ぎないですね。この時、人に害が及ぶと災害と呼ばれます。

地震、台風、山崩れ、火山噴火など、このような人智を超えた自然界の “戯〔タワムレ〕” は超最大のツツです。このエネルギーは何モノによって生み出され、制御されているのか。

人々にとって自然現象に依る猛威そのモノとは別に、それらを作り出す「自然エネルギーの源」を司る存在(神)が脅威の的でした。この親玉的存在をカツ・ツツヌキといい、転じてハヤ・スサノヲ(速・須佐之男)と呼びます。

記紀では災いの神として、スサノヲを「神夜良比 夜良比岐 カムヤラヒ ヤラヒキ」する場面があります。これは大災害を経験した人達の“切なる願い”(邪悪な神の追放)から作られた話でしょう。

 

◇「竜神
 人の心の内に作られた想像上の霊獣としてのツツヌキの音には、竜ヌ神(ツツ・ノ・キ)という字も充てます。漢音のリュウジンも、ツツ→ルウ→リュウ、キ→キン→チン→ヂン、と音転するのだから元はツツヌキです。(※「竜」と「流」は音も同じ、意も同義)

 

*ある時、水晶玉を用いる占い師が、おさまり澄ました知たり顔で「水晶は水の結晶です。」と言ったのに対し、傍らで聞いていた人が間髪を入れず「水の結晶は氷だよ。」と簡単に粉砕されていた。

この占い師と同類の人種が、これまた得意顔で「竜は水の神です。」などと言い放つ。竜(龍)の訓読みのタツも、音読みのリュウ(ルウ、ロン)も、ツツからの転化音です。

ツツとは「動き」を表わす語であり、水の意などカケラもない。水神は罔象(ミツハ=元の音はキツ・カ)である。また蛟(ミヅチ=元の音はキツ・キ)とも云う。

ミヅチを竜の子の一種とするが、ミヅチ自体は水を指し、これが動いて初めてツツ・ミヅチとなって竜蛟と表記されるのです。動かない水溜りを竜〔ツツ〕とは云わない。

◎竜は、流動の神であって、水の神ではない。

 

◇「ドラゴン
 ツツルキ→トトルコ→トルコ→ドラゴン、と転じる。中世の西洋ではこれと戦う騎士が英雄とされた。ドン・キホーテが風車と闘おうとした話があり、愚か者の象徴のようになっていますが、風という自然エネルギーもまたツツヌキです。

彼の行動はこの件に関して、何ら間違っていない。また、彼はこの風力活用建造物をドラゴンと見立てて闘いの気持ちを高めたのかも知れない。
奈何せん、全てが妄想だったことが問題であっただけです。