「ツツ・ツツ」重連

【ツツ考】[022]___

◇「重連
 日本語には、ツツを二つ重ねて「ツツ・ツツ」という音表現があります。動きの継続や繰り返し、また動きの滑らか度合いや、その状〔さま〕などを表わす時に使われます。

ツはタ行の他の音や、サ行音などに転化しますが、同じ音を四つも続けるのは、流石〔さすが〕に発音しづらい。そこで、ツツの後ろのツが色々な音に転化します。

例えば、ラ行音になれば、ツルツル、スルスル、またタラタラ、サラサラ。クの音になると、ツクツク、スクスク、またトコトコといった表現になります。

*スクスクは「子供がすくすくと育つ」のように、無事な成長の意に使いますね。広義には、物ごとが滞り無く運ぶ状態を表わします。
《応神記》の歌に次の一節があります。

  志那陀由布 佐佐那美遲袁
  須久須久登 和賀伊麻勢婆夜

  しなだゆふ ささなみ道〔ぢ〕を
  スクスクと 我がいませばや…

ここでのスクスクは、順調に歩を進める状をいい、或る種の軽快感を持たせています。今の言葉でいうテクテクは、歩く行為自体を表わすので、ちょつと違うかもしれない。

 

*パソコンを扱う人達の間では「サクサク」という言葉がすっかり定着していますよね。音としては昔から有りますが、使い方としては新概念の語です。

仮に、この音を応神天皇が聞いたとしても、ニュアンスはある程度、通じるでのではないでしょうか。考えてみたら、これ、ちょっと凄い。千七百年の時を隔てて言葉が通じるなんて、そんな国が有るでしょうか?

 

話を戻します。


 ツツ・ツツが、ツル・ツルや、ツク・ツクなどと、後ろのツが他の音に変わるのは、その方が“発声し易い”という、いたって単純な理由からです。

結果として、ツツ・ツツの音種バリエーション自体が増え、色々な特徴、状況、感覚、といったものを表わすのに便利、という副産物ができました。

 

 

◇「誘い〔イザナ・い〕」
 他人に対して何らかの行為を、促〔うなが〕す、勧める、誘う、招く、導く、といった事をする時、使う言葉として「サァ、サァ」というのが有ります。「サァサァ、お入り下さい」などと使います。

この「サァサァ」は、ツツ・ツツ→ササ・ササ→サァ・サァ、と転じた音でしょう。短く「サ・サ」と云う場合も一つの「ササ」ではなく「サァ・サァ」の短縮系で「サ・サ」です。

これに勢い付けの始発音ンが付き「サ・サ」、更にンが母音(ここではイ)になり「イサ・サ」という語も使われます。また、サが一個になって「イザ」にもなる。「イザ、尋常に勝負!」などのイザです。
ここでのイザは、物事を始める時の掛け声、また合図としての役割りにもなっています。

 

*「イザ」という語は「何々するぞ!」また「何々しましょう」という時の、呼び掛けの言葉です。当然、後ろに何らかの言葉が続いています。「イザ、何々、する」というのが定型だった。

地域の言葉に「〜してクダサイ」を、「〜しんサイ」「〜してクンナイ」また、「来てくだサイ」が「来てくんサイ」「来んナイ」、また「食べてね」が「食べてくんサイ」「食べナイ」などのサイやナイの表現音がありますね。

「誘い〔イザナ・イ〕」とは「イササ(何々)ナイ」という言葉の“何々”の部分を省いて、イサ・ナイ、になったと思われます。
「イササ・ササ、何々、しましょう」が「さぁ、しましょう」になる。これが「イザ・ナイ」の元にある音でしょう。

 

 

▽ちなみに。
「誘」の読みはイザナイとサソイの二つがあります。この違いは何か、に付いて。
※この語は、イザナウやサソウといった動詞では無いということを、先ず知っておく必要が有ります。

*「さそい」ツツ・ツキのツツがササに変わり、キがイになります。ササ・ツイ→サ・ソイ、と転じて出来た語です。
  ツツ・ツツ・ツキ
   サ サ  ・スイ
    サ   ・ソイ

*「いざない」元の音がツツ・ツキであるのは同じです。ツツの頭に予唸音ンが付きンツツ。ンが母音イに、ツツがササに転ずることでイササという音になります。ツキがヌイ→ナイと移り、ツツ・ツキ→イササ・ナイの音になる。
     ンツツ・ツキ
 ウスス・ヌキ
 イササ・ヌイ
 イ  サ  ・ナイ

元の音はどちらも同じですが、シンプルなのが「サ・ソイ」、ボリュームを持たせたのが「イザ・ナイ」という、ただ、それだけの事です。

 

 

*「伊邪那岐〔イサナキ〕
イサナキの名は「誘〔いざな〕い」という語からきているという説があります。

 オノゴロ島に降り立った二神は、降りるのに使ったスペースチューブを天之御柱に見立て、その前に並んで立つ。そして、作法通り「陽神左旋、陰神右旋」男神は左回り、女神は右回り〉でスタートします。柱のちょうど反対側で出会ったところで、お互いに声を掛け合う、という儀式に於ける一所作があります。

この記述の、声掛け〔コエ・カけ〕行為を「イザナイ(誘い)合った」と解釈をし、ここから男神をイザ・ノキ、女神をイザ・ノミ、といい、これが名になった、という説。

 

*生命体を表わす語をキツキといいます。先のキが膨らんでキッツキ、さらに、→キサヌキ→イサナキ、と転じてこの呼称が出来る。

  • 誘い〔イザナ・い〕]ンササ・ササ・ツキ→イササ・ヌイ→イザ・ナイ。サはザ(濁音)になります。
  • 伊邪那岐〔イサナキ〕]キツキ→キッツキ→キスヌキ→キサヌキ→イサナキ。邪〔ザ〕はサ(清音)だったと思われます。

◎よって、この二つの語は、音も、意味も、成り立ちも全く違うので、別の語になります。

 

 

◇日本語には「ツツ・ツツ」から転化してできた言葉が異常なほど多い。その意味や役割りも多岐に渡り、ここに示したのはほんの一部でしかありません。挙げればキリが無い。

現代では擬音として扱われるツルツル、サラサラなどの表現音の始まりは、ツツという歴とした単語であったことが分かります。