「ツツ・ヌキ」戦うモノ

【ツツ考】[014]___

◇「戦士
 軍人の呼称には大きく分けて、カツキ系とツツヌキ系があります。大雑把な言い方をすると、カツキはモノ(武人や武具など)、ツツヌキはそれらの働き(動作)を表した語と言えます。
だが、戦う事には変わりなく、戦闘員を表わす語としてどちらも同じように使う。

 

◇「武闘神
伊邪那岐迦具土を斬った時、剣から滴る血に成る神である石筒之男神は、同時に建御雷神でもあり、亦名を建布都神、豊布都神という。

古事記
   於是伊邪那岐命
   拔所御佩 之十拳劒
 斬 其子迦具土神 之頸
   爾著其御刀前 之血

   走就湯津石村 所成神
   名石拆神
   次根拆神
   次石筒之男神

 

  • 次著御刀本血。亦走就湯津石村、所成神名、甕速日神、次樋速日神、次建御雷之男神、亦名建布都神。亦名豐布都神。
  • 次集御刀之手上血。自手俣漏出、所成神名、闇淤加美神、次闇御津羽神。

※御刀に著く血の三つの表記のうち、二番目の著御刀本血は「著御刀本 血」、三番目の集御刀之手上血は「集御刀手上 血」と書いたのではないか? 二文字(其・之)の漏れと、一文字(之)の移動が感じられます。

 

《ツツヌキ系》
石筒之男:キツ・ツツヌキ→イシ・ツツノヲ。
経津主:ツツヌキ→フツヌシ。
建布都:ツキツミ・ツツヌキ→タケツミ・フツヌシ→タケ・フツ。
豊布都:ツキツキ・ツツヌキ→ツユスキ・フツヌシ→ツユ・フツ(トヨ・フツ)。

建布都と豊布都の二つの名は、原音で見ればツキツミ・ツツヌキですが、これを→ツキ・ツツ(タケ・フツ、またトヨ・フツ)と省略した形です。

《カツキ系》
石拆神:キツ・カツキ→イツ・ファサキ→イ・ワサキ。
御雷:ツキツミ・キツ・カツキ→タケツミ・イカヅチ。
(※雷:キツ・カツキ→イツ・カヅチ→イ・カヅチ

ツキツキ(転音、タケツミ、またツユスキ)は仕える人を表わす呼称であり、この語を用いる時点で王の存在を示唆している。

根拆:ネツキ→ネサキ〈頸。胴と頭部を繋ぐ身体の部分。クビ。〉

甕速日:カツ・カヤツキ→カム・ハヤキ→カメ・ハヤヒ〈この甕の字はカメ〉。

樋速日:キツ・カツキ→ヒ・カヤキ→ヒ・ハヤヒ。

闇淤加美:キツ・オカツミ→クラ・オカミ。

御津羽:キツ・キツカ→クラ・ミツハ(彌都波、また罔象)。

 

◇「」と「
“イ・クサビト”同士が、“タタキ・合い”をするのを、イクサ(軍)のタタカイ(戦)、という。これが時を経て、音は「イクサ」、文字は「戦」を充てたりする。

  • 「イクサ」とは、キツ・カツキ→イツ・カサブト(ビト)→イッ・クサビト(軍人)→イクサ。
  • 「タタカイ」とは、ツツキ・アイ→タタキ・アイ→タタキァイ(合戦)→タタカイ。


◇「武器
 金属が未だ無かった時代は勿論だが、銅剣が造られ始めた時代でも、一般の兵士達が持つ武器は専ら棍棒であった。小規模な集団であれば尚更である。

この棒をツツキ・ツキ(叩き・の木)というが、先が塊になったツツキ棒はコブ・ツツキ、より強力にするため先に石を付ければイシ・ツツキとなる。

《神武記》の歌に「久夫都都伊、伊斯都都伊母知」〈瘤ツツイ、石ツツイ持ち〉とあり、ここではツツキのキがイに転じ、ツツイと発音される。

《景行紀》
十二年冬十月、「則採海石榴樹、作椎爲兵。因簡猛卒、授兵椎…、」などの記述がある。硬い材質の木で造ったツツキ(殴る道具)がツツチ→ツチの音になり、ここでは椎の字を充てている。

 

▽「ツルギのタチ」について。
《記》に、倭建命「其の御刀の草那藝剣、ミヤズ比賣の許に置いて…」ー(略)ー そして、崩る直前「歌曰、…和賀淤岐斯、都流岐能多知…」〈我が置きし、ツルギのタチ〉

[都流岐能多知]刃物の突〔ツツ〕き(また、叩き)棒。◯都流岐/ツルギ。金属製。ツツ・ル・キ→ツルギ(剣)。刃物。ツツキ棒の総称。◇ツルギのギは清音・キ(ツルキ)と発音したかも知れない。◯多知/タチ。カツキ→タツチ。タチ(刀)。

◇ 多くの人が、剣〔ツルギ〕と大刀〔タチ〕の違いに付いて説明しているのを目にします。例えば「剣は両刃、大刀は片刃」「剣は直刀、太刀は反りを持つ」など。
『漢字の大辞典には、そう書いてある。』だから、間違い無いという事でしょうか。

しかし、ここに「ツルギノタチ」という語が出てくる。「ツルギとタチ」ではない。「ツルギのタチ」である。

 

◇「ツツキのカツキ
 相手をツツキ(突き)、タタキ(叩き)、する為のカツキ(武器、道具)が転じて、ツツキ→ツルギ、カツキ→タツチ→タチ(剣の大刀)になる。ツツキのカツキが、ツルギのタチ、と呼ばれる。
また、ツツキのカツキは、ツツキ・ホツコ→ツキ・ホコ、の音にもなる。月鉾。

◇「触れる」
ツツキとは、対象物に、或るモノを接触させる行為をいいます。これを英語ではタッチ(touch)と言う。
強く当てるのをド・ツツキ→ドツキ、またヅ・ツツキ→ヅツキ。
そっと触れるのをス・ツツキ→ソ・タタキという。またソフツト→ソフト(soft)という。


◇「キリ」(切、斬)
キリ(切)という語は「擦る」行為をいう。キツ・ツツキ(キツく・擦り)がキ・ツリ→キリになり、切、斬、などの字を使う。

*火切杵(燧杵/ヒキリ キネ)、大工道具の錐〔キリ〕、これらのキリは棒状の先端を対象物に当てて回転摩擦を加え、火を作る、穴を開ける、といった事をする道具である。また、両の掌を使って行うこの動作(揉み)をキリモミという。

耳にする音だけでは、その存在に気づかないが、音を遡れば語の中にツツが見えてくる。

 

◇「カリ
 道具類は総じてカツキと云う。刀剣類もまたカツキと呼ばれるが、→カツリ→カリという音にもなる。

*最も強力なカリはマサカリ(マツ・カツキ→マサ・カツリからの転)という。
*先端が鋭利なカリはツ・カリ(ト・ガリ=尖り/ツ・カツキからの転)、また、ツン・カリ→トンガリという言葉になる。

「ツ」は、先端、一点、またポイント、ピン、などの意味をもつ。ツン、トン、デン、などと促音を付けて使われるのは日常的です。

[都牟刈之大刀]ツムカリノタチ。先端が鋭利なカツキ。◇日本語にはンの音が沢山出てくるが、一文字でンを表わす漢字が無い。そこでムの音を持つ文字(牟無无など)を代用する。よって、都牟刈〔ツムカリ〕をツンカリと読んでも構わない。

 

*針もまた小さい物とはいえ刃物の一種です。カツキ→カリ→ハリと転じ、一寸法師はこれを腰に佩く。一応ツルギのタチであるが、ただし針なので、チクチク刺す「ツツキ(突き)の刀」ですね。