神名人名・10-1「武人」

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10、カラツキ 〈1/8〉

①「カラツキ」について
 武人関係の者を表わす語としてはキツ・カツキが一般的な呼称ですが、他にカラツキという語もよく使われます。丁寧にいえばキツ・カラツキですが、カラツキの音だけでも使います。

上代に於ける軍事や治安組織に属する人々の総称で、将軍から門番まで含まれます。現代の役割で言えば、軍人、警察官、警備員、守衛、といった所に該当します。

上級カラツキは王の血縁者や古くからの家来で占めるようですが、末端の現場で仕事をする下級のカラツキ(下士官、番卒哨兵の類)は、かつては敵対していたが、今は配下に入ったクニや部族の者も少なくなかったようです。

中には元上級カラツキだったけれど、何らかの不始末により下級に落とされた者もいたと云います。


◇「漢人」「韓人」「隼人
 カラツキという音は、カツキのカがカラと膨張して出来た音ですが、さらに転じて、カラツキ→カラブト(カラビト)、またカラがハヤと転じて、ハヤブト(ハヤビト)→ハヤト、などの発音になります。

カラビトには漢人や韓人、ハヤビトには隼人の字を充てます。

ここでの漢や韓の表記を見てほぼ全ての人が、渡来人、帰化人、などと反射的に反応してしまいます。しかし、その思い込みによる決めつけ判断は危険です。

単にカラツキのカラの音に漢や韓の字を、ただ、充ててるだけの場合が殆んどだからです。しいて云えば、漢の文字には真〔シン〕の男(マツラ・ヲ)の意がある、という事くらいでしょうか。

人名の倭漢〔ヤマトノアヤ〕などに見る漢の文字(アヤと読ませるのも不審)に付いても、カラツキ(武人また武家の者)を指すのであり、外国人を意味するものではないでしょう。


◇「韓鋤之剣カラスキ ノ ツルギ〕」
《書紀》の神世(八岐大蛇)の条、一書曰(第三)に「乃以蛇韓鋤之劒 斬頭斬腹…」〈すなわち、韓鋤ノ剣を以って蛇の頭を斬り腹を斬り…〉との読み下しがなされますが、韓鋤とはカラツキがカラスキと転じた音に充てた字と思われます。

また、「蛇韓鋤之劒」を素直に読めば「ヲロツチのカラスキのツルギ」であり、敵の武人が持っていた剣、という意になる。

だが、条の初めに置かれる本文では「乃抜所帶十握劒、寸斬其蛇」〈乃ち、帯びし十握剣を抜き、そのオロチを斬りきざみつ〉と、自身が帯し(佩く)十握剣〔トツカノ ツルギ〕としています。どちらがホントなのでしょう。(この後、尾を裂き見れば…草薙剣、と続く。)

 

▽ちなみに。この文章の中に「斬頭斬腹」という書き方が有りますが、少々気になります。

元の書き方は「斬頸拆腹」〈頸〔ネツキ〕を斬り、腹を裂き〉または「斬首割腹」〈首〔カシラ〕を切り落とし、腹を斬り割き〉ではなかったか、と思われます。

斬頭とありますが、頭(頭蓋骨部分)を斬っても一太刀では致命傷にはなりにくい。素早く仕留めなくてはならない状況の中ではやはり頸を狙う。

《記》では、伊邪那岐迦具土を殺す時も「斬其子迦具土神」であり、水歯別(大雀の子)が隼人曽婆加理を殺す時も「斬其隼人之」と、頸を狙っています。

 

◇「草薙剣クサナギ ノ ツルギ〕」
 クサナギの音が、カラツキから転じたとすれば武将の意となります。キサナキが元の音であらば首領を表わす事になります。

すると、ヲロチ(ヲロツチ=ゴロツキ)の中から出たクサナギの剣とは「敵の武将」もしくは「敵の王」が持っていた剣、という意味になってきます。

*此の剣を得た場面について、《記》では次のように記述します。(※三行棚字になっています)

   故切其中尾時 御刀之刄毀
 爾 思怪 以御刀之前刺
   割而見者 在都牟刈之大刀
   ・・・(略)・・・
   是者草那藝之大刀也

○ここに、其の中ツ尾を切りし時、(何か固い物に当たり)御刀が刃毀〔は・こぼれ〕してしまった。その状、怪しく思い、御刀の前〔さき〕を以って刺し、割〔さき〕てみれば、ツムカリの大刀在り。…是が草那藝之大刀である。

 

中尾]アツ・カツキ。ヌア・カツヲ、と発音された音に充てた字。集団の長、大将。(※通番011「超優越」参照)[御刀]ミハカシ。身・佩きし。自身の刀。「刃毀]毀=欠け。こぼれ。十握剣が刃こぼれした。

都牟刈之大刀]先端が強烈に尖った大刀。◯都牟刈/ツムカリ。ツ・ヌ・カリ・ツツキ。◯ツ/先端、天辺、頂、などの意。◯カリ/強力な。カツキ→カツリ→カリとなります。また、カリ→ハリ(針、鉤)にもなる。ちなみに、糸はキツキ→イット→イトになる。◯ツツキ/タタキ。ツチ。タチ。叩き棒、突つき棒の総称。◇ツム・カリノタチとは、トンガリのタチ。(尖りの大刀)。

▽ちなみに。刃物の中で最も大きな破壊力をもつのは、マツ・カリといい、転じてマサカリという。

草那藝之大刀]クサナギノタチ。◯クサナギ/位の高い人。恐らく敵将。◯大刀/タチ。ツツキがタチになり、この音で流通する。

《書紀》では草薙剣〔ツルギ〕といい、《記》では草那藝之大刀〔タチ〕とするが、「ツルギのタチ」という語が先ず有って、これをどう省略するかの違いによるものか。

*この出来事について、現実的な解釈をすると…「刃を打ちあった時、ヌアツ・カツキ(ナツ・カツヲ=中ツ尾)が持っていた剣は、とても硬く、自分の剣の刃が欠けてしまった。その上、先端が驚くほど鋭利な大刀だった。」

須佐之男にとって、初めて見る鉄剣だったのではないでしょうか。相手は酒が入っていたのと、不意をつかれたのとで素早い反応ができず、殺〔ヤラ〕れてしまった。

スサノヲは色々な顔を持つ神です。一つでは有りません。ここでは勇猛な武人のスサノヲが登場しました。

 

[020]に、つづく。