「ツツ・ヌ・キ」血

【ツツ考】[009]___
3-1.液体の流れ 「ツツ・ヌ・キ」

◇「流れる血
 伊邪那岐命迦具土神を斬る。その時、使った剣・切った頸・刃を伝い流れる血。これを《記》では次のように書く。

①   於是伊邪那岐命
    拔所御佩 之十拳劒
  斬 其子迦具土神 之頸
    爾著其御刀 之血

    是に伊邪那岐命
     御(身)に佩〔ハ〕きし これ十拳劒を拔き
   斬 其の子、迦具土神 これ頸〔ネツキ〕
     其の御刀の前〔サキ〕に著きし これ血

 

また、ここでは斬の文字を棚に置く“三行棚字”になっているので、この後に続いて書かれる②「次著其御刀之血」、③「次集刀之手上血」の二つの語句それぞれの前の位置にも、「拔所御佩 之十拳劒」「斬 其子迦具土神 之頸」の二行を同じ場所に置くべきですが、重複を避けて省略している。

② 次 伊邪那岐命
    拔所御佩 之十拳劒
  斬 其子迦具土神 之頸
    著其御刀 之血

③ 次 伊邪那岐命
    拔所御佩 之十拳劒
  斬 其子迦具土神 之頸
    集御刀 之手上
※この末行の本来は「爾集御刀手上 之血」だろう

 

 

◇頸を斬るのに使った十拳劒、その刃先、刃元、柄〔ツカ〕、に流れ滴る血のそれぞれに神が宿る。

湯津石村〔ユツ・ィハムラ〕は刀身を言うのだろう。だから①と②だけに置かれる。③は柄なので記さない。(※ユツ・ハムラの原音は、キツ・カツラでしょう。)

①"  (爾著其御刀前 之血)
    走就湯津石村 所成神
    名、石拆神
    次 根拆神
    次 石筒之男神 三神

②"  (次 著御刀 本血) ※著其御刀本 之血
    亦走就湯津石村 所成神
    名、甕速日神
    次 樋速日神
    次 建御雷之男神
      亦名建布都神
      亦名豐布都神 三神

③"  (次 集御刀 之手上血) ※集御刀手上 之血
   自手俣漏出 所成神
    名、闇淤加美神
    次 闇御津羽神

 

*「十拳劒・石拆神」石拆は、イハサキ。
キツ・カツキが、イツ・ハツキ→イ・ハサキ、と転じて石拆の字を充てる。
」の字はイシとイハ(イワ)のどちらの音にも使うが、ここはイハ(イワ)である。
」の字はサキ(裂、割)の音に充てる。
◯キツ・カツキは、別の転音ではイ・カヅチ(雷)になる。
〈注:発音として、ハはファ、ワはウァ。〉

 

*「頸・根拆神」根拆は、ネサキ。
頸の古和語をネツキというが、ネサキと転じた音に根拆の字を充てる。頸(ネ)を斬り裂いたことに依る。

 

*「血・石筒之男神」キツ・ツツ・ノ・ヲ。
ここでは、ツツ・ヌ・キの音が〈流・之・血〉と〈戦・之・男〉の両方を担っています。

住吉神社が祀る海神(底・中・表の筒男命=潮流)を武神として扱かうのも、同じ理由からです。またツツ・ヌ・キは、ツツルギ→ツルギと移る剣の原音でもあります。
*刃の、前〔サキ〕の血/刃先。
    本の血/手元近く。
    手上の血/柄の手を濡らす。

これらは剣を、先の刃、手元寄りの刃、握る柄の三つに分けて、それぞれ流れる血(ツツ・ヌ・チ)に成る神をいいます。

*筒之男だけならツツノヲだが、石の字が乗っているので、キツ・ツツヌキ→イシ・ツツノヲ、と転じた音に、石筒之男を充てる。ここでの石の字はイシ(キツからの転)の音に使う。