17-1「山」と「墓」

地名国名[040]
17、カヤマ〈1/7〉

◇「ヤマ(山)」という語
カツカは、あらゆる面を表わす総称として使う。
カツマは、陸地面を云い、島や国の字を充てる。
カヤマは、盛り上がった地形を表わす言葉です。

カツカのツが、ツ→チゥ→イゥ(ユ)→ヤ
カツカの後ろのカが、
       クァ→ファ→ブァ→ムァ(マ)
と転じてカヤマという音になる。

カヤマは傾斜があまり険しくない盛り上がった地形をいいます。カがカツと膨らんだカツヤマの音もよく使います。頭にオを付け、オカヤマ(オカツヤマ)ともいい、これを略してオカ(岡、丘)、またヤマ(山)という地形呼称ができました。

オカもヤマもカヤマを略した音であり、同じ意味でした。始めの頃は地域(部族)によって、どちらを使うか、だけの違いだったのでしょう。そのうち、なだらかさの違いによる使い分けが為されるようになります。

一般的な山をカヤマやヤマと云うのとは分けて、盛り上がりの傾斜がより緩やかな地形をオカと言い慣わすようになっていきました。これらの音が独立単語となり、現在に至ります。

 

◇「葬い場」〔トムライ ノ バ〕
 死者を埋葬した場所には土を盛っておくという風習を、人はいつからやり始めたのでしょう。日本では少なくとも縄文時代中期に於いて存在した事は、はっきりしていますが、それが始まりを示すものでは有りません。

弥生時代から起こる巨大墳墓への流れは、この延長線上に有るのは間違いのないところです。今、古墳と呼ばれるこの盛土は人工的に作られたものですが、此れもまたカヤマと云いました。

よって、かつてカヤマという語は「山」の他に「墓」の意としても使われます。

大きなカヤマをカツ・カヤマといい、この音が、ハツ・カヤマ→ハ・カヤマ(墓山)と移って、ハカの音が出来たと考えられます。

 

伊邪那岐に殺された迦具土神、この体に色々な神が成る。正鹿山津見神(於頭所成神)は、マサカツ・カヤマ・ツミです。マサカツは「最高の」を意味する接頭語です。ここでの山の字は一字でカヤマです。

つい見慣れた山津見に目がいってしまい、正鹿・山津見(マサカ・ヤマツミ)と切る形が主流ですが、遺体に成る神だからカヤマ・ツミなのです。

オクツキ(奥津城)やツキ(桃花鳥)は石室また石棺など、遺骨が置かれている空間をいうのでしょう。墓全体はカヤマであるが、ツカと呼ぶ部族もあり、古くにはこの二つの云い方あったようです。

 

◇今では盛土を表わす言葉としてツカ(塚)が一般的です。これが何故か勢力を増し、塚しか見なくなってしまいます。

ツカはカツカの先のカが略された音です。あるいは、アツ・カヤマに大塚山、タツ・カヤマに手塚山や帝塚山といった表記から「塚山」という語が生まれる。さらに塚と山が分離して、塚だけを使うようになったのかも知れません。

何れにしろ、今では埋葬地を表わすカヤマという語は、日常からすっかり消えてしまったようです。しかし、ゆっくり見渡せば、今もなおカヤマだらけであるのが分かります。幾つかの例を挙げてみます。

通番[041]に、つづく。