【ツツ考】[011]___
3-4.液体の流れ 「キツ・ツツ・カ」
◇「川」
カワという音は、カツカ(面)の先のカが膨張してカハ(kaha /一音語)→カファ(ka・pha /二音語)→カウァ(kawa)と転化した音です。古代から中世に於いてはカファツカの後ろのツカを省いたカファが一般的だったようです。
アイヌ語では、ベツ、ペツ、ペシ、べ、ぺ、などの音を使う。これら音の違いは、アイヌの中での地域や時代の違いによるものでしょうが、源音はカツやカですね。
◇「キツ・ツツ・ツ・カハ」
これは最も古いタイプの川の呼び名ですが、時と共に転化また省略して、個別の呼称となってゆく。現在でもその音を残しているのが多くあります。転じた音が固有名になったものを幾つか挙げてみると、次のようなものがあります。
《キツ・ツツ・ツ・カハ》
イソ・スス・ヅ・カハ(五十鈴川)
クヅ・タツ カハ(九頭龍川)
※今はクズリュウと読む。
ヒラ・タ カハ(平田川)
ヒロ・セ カハ(広瀬川)
イト・タ カハ(糸田川)
ミナ・セ カハ(水無瀬川)
ここにあるキツの転化音はよく見る形です。ツツがタツ、或いはツツ・ツがタタ・ツ→タツに転じて竜の字、タタが一個のタになって田の字が充てられる。瀬はセセ(瀬瀬)に転じた後、一音のセ(瀬)のみになったものです。
◇「上」はツツ?
北上川、最上川、犬上川、といった名の川があります。キタ(北)やイヌ(犬)の音はキツが源音であるし、モ(最)もキツ→モノと転じる音なので、すんなり入ってきます。ところが「上」の字は何だ?
川の古名に照らし合わせれば、この場所にはツツが入る筈ですが、何故ツツではなく上なのか。恐らく、元はツツだったでしょう。これには次のようなことが考えられます。
- ツツ→ヅン→ジン→神→カミ→上。
ツツがジン(またシシ→シン)と転じた後、ジン(シン)の音に神を充て、更に訓読みのカミになり、これが同音の上に変わった。 - ツツ→タツ(タチ)。
「上」の字をタツやタチと読む地域があって、キツ・ツツがキタ・タツと転じた音に北上の字を充てた。同様にモノ・タツ(最上)、イヌ・タツ(犬上)となる。
⑴ の可能性が大きい。朝鮮半島にあるイムジン・ガンという川の名も、先住民の言葉でキツ・ツツ・カハが元の音でしょう。キツ・ツツ→イム・ジンの転音であり、ツツがジンに移る。
そして日本では、ジンが神に、神が上に移る。
◇「アムール川」
中国語で黒竜江〔コクリュウコウ〕と書く。この名を見ると、(キツ・ツツ・川の)キツがキナに転じ、この音に国の字を充て、後に漢音のコクと読み、さらに同音の黒の字を充てた転音、
キツ→キナ→国→コク→黒
というルートが見えてくる。竜の字はもちろん元はツツ。
源音は何故か日本語で解釈できる。キナの音に国の字を充てるのは、ア・キツキがオホ・キナヌシに転じて大国主の字を充てる例がある。音だけを見ると日本語のように見えます。
◇川は人類にとって常に身近なものでした。世界中の国や言語で使われる川を表わす音は、多岐にわたるでしょうが、遡ると案外同じ音に行き着くかも知れません。