14-2「曾野」「園」

地名国名[033]
14、カツノ〈2/2〉

 

◇「ソノ

 園〔ソノ〕は、専ら農作物(また植物)を栽培するための一区画、それらが繁茂する土地をいいますが、しかしそれは後の時代のはなし。上代に於いては意味が違っていました。

カツノがカソノと転じ、カのおとが落ちてソノ(園、薗)という語になる。柵で仕切られた内側の空間をいい、安全な敷地、清浄空間などを表わす語として使います。また墓域など、死を扱う処に漂う陰〔イン〕の空気を相殺するため、敢えて良い意味を持つ園〔ソノ〕と名付けられた地もあります。

垣内という地名があります。カイチ、カイトなどの音にもなり、西日本の広い範囲で見ることができるが、九州のある地域では同様の敷地や区画をソノと云い慣わします。

近世に於いて、垣内の意味するところは様々で、耕地、集落、屋敷などをいい、はっきりとした定義が難しくなります。この混乱期が転換期になり、垣内はその前と後では、全く違う語になった。

 

*次の歌ではソノを陣地、また陣内を表わす語として使っています。そして、それは正に垣内といえるでしょう。
《神世記》
 夜久毛多都 伊豆毛    八雲立つ 出雲
 夜幣賀岐 都麻碁微爾   八重垣 ツマ込みに
 夜幣賀岐 都久流曾能   八重垣 作るソノ
 夜幣賀岐袁        八重垣を

○多くの武装兵がイヅクモからやって来る。目を詰めて編んだ蓆〔ムシロ〕の八重垣、安全なソノ(陣地)を作る八重垣、八重垣を。

夜久毛多都]◯夜久毛/八雲。敵の戦闘員。戦闘集団を表わすヤツ・カムツキの侮蔑的表現がヤツ・クモツチの音になり、これがヤツ・クモ→ヤクモ、と転じる。◯多都/起つ。行動。企て。武装蜂起。

伊豆毛]出雲。キツ・カツマが転じたイヅ・クモシマの略。イヅ・クモ→イヅモ。敵国。

夜幣賀岐]ヤヘガキ。◯夜幣/八重。イアツ・カ→ヤヘ→ヤヘ、と転じる。多く重ねる、などの意。◯賀岐/カツキが縮んでカキ。またカイの音にもなる。垣、柵、防御壁。

都麻碁微爾]◯都麻/ツマ。端。またツメ(詰め)。◯碁微爾/混みに。込みに。◇蓆には、粗編み〔アラアミ〕と細編み〔コマアミ〕がある。

都久流曾能]◯都久流/作る。◯曾能/ソノ。苑。曾野。◇カツノがカソノに転じてソノと略される。城柵の内側の空間。安全地帯。

 

 

◇「戦闘態勢

 須佐之男は天上界から追放された後、さまよい歩いていた。そんな時、とある集落を見つけ入っていった。ある者に話を聞くと、秋になると何処かから武装集団がやって来て、収穫したものを奪っていくと嘆いた。

これを聞いた須佐之男は或る作戦のもと、やって来た略奪集団の多くを叩き潰した。(※記紀の、八俣ヲロチの条に詳しい)

*連中が何処かのカツマ(国)か、カツラ(村)の者か、或いは単なる山賊の類〔タグイ〕なのか。いずれにせよ、後に彼等の仲間が報復攻撃を仕掛けてくるかも知れない。そこで戦闘に備え砦塞を築く。

稲の収穫後であり、藁〔ワラ〕は大量にある。「これを使って、沢山の盾を縫え」と、仲間や村人に大号令を発っします。これを作るのを「盾縫〔タテヌイ〕」という。

薄物を何枚も重ねた状態を畳〔タタミ〕といいます。管で作った薄物を何枚も重ねれば菅疊八重といい、皮なら皮疊八重、絁〔キヌ〕なら絁疊八重です。同様に、蓆なら蓆畳八重といいます。

しかし、ここではただ重ねただけではなく、たくさん重ねた物をしっかりと縫い合わせ、ボード状にした厚畳、これは八重畳と呼ばれる。この「八重畳で作った垣」が八重垣です。この垣内の空間(安全地帯)が園〔ソノ〕

八重垣は、敵が射た矢を防ぐと同時に、畳に刺さった鏃〔ヤジリ〕は損傷させることなく回収できる。これを自分達の武器として使うという便利さもありますね。畳のルーツが此処にある。

 

 

◇「美しき誤解

古事記》には百余りの歌が載せられていますが、先に紹介した「夜久毛多都・・・」この歌がイの一番に登場します。現存する日本最古の書物の中の最初の歌、つまり、記録として残る日本最古の歌です。

《記》の中にある歌は、短歌であっても長歌と同様の形で、一行の内に一語句づつによる上句と下句で作られていました。上代ではこれが普通でした。また多くの場合、上句に置かれる語句が後に枕詞になっていきます。

三語句(五、七、五)を上句とし、二語句(七、七)を下句とする現在の形は、奈良末期もしくは平安初期に出回り始めたものです。よって最古の歌に対し、この形を当て嵌めるべきではありません。だが、当て嵌めてしまったのが、こちら。

 八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに
 八重垣作る 其の八重垣を

五七五・七七の上句下句になっており、古くから此の形をもって歌の解釈をしています。偶然にも三十一文字〔みそひともじ〕であったことから、気持ち良く納まってしまった。(或いは元の字数は違ったいたが、此の形にするべく手を加えたか)

然して、「これこそが短歌の根本となる歌だ」となる。そして、血生臭い戦いの歌が、いつしか心優しい愛妻家の歌へと、変貌してしまいましたとさ。