「ツツカ」永遠

【ツツ考】[004]___
⒈ 時間 

「永遠」
《景行記》倭建命の条。

   坐酒折宮 之時歌
 曰 邇比婆理 都久波袁須疑弖
   伊久用加 泥都流

   爾其御火燒之老人 續御歌
   以歌曰
   迦賀那倍弖 用邇波許許能用
   比邇波 登袁加袁

是以 譽其老人 卽給東國造也

 

○(甲斐の)酒折〔サカサキ〕ノ宮に坐しし時 歌いて、曰く「新治〔ニヒバリ〕、筑波〔ツクバ〕を過ぎて、いく夜か 寝ただろうか。」

ここに火焼き〔ヒ・タキ〕の老人、御歌に続けて、
以って歌い、曰く
  「日々を並べて 夜は九夜、
   日(昼)は十日を。」
是を以て、其の老人を誉め、即ち東国造を給いき。


◇疲れ切った表情の倭建命が、独り言のように呟いた言葉に、老人が少し陽気な声(だったか)で返した。歌と云うより、倭建命と火焼之老人のちょとした会話です。

一見、何という事のない遣り取りですが、これによって火焼之老人はクニ(カツマ)を一つ賜わるのである。ここには吉祥の言葉遊びがあります。

 

「トワ(永遠)という語
 古語で数の十をツツといいます。よって、十日をツツカ(音便でトカ)という。
また別に、ツツを続、カを世、とするツツカ「続く世」は、ツツカ(クァ)→トトハ(ファ)→トトワ(ウァ)と転じて、トワ(永久・永遠)という言葉にもなります。

そこで、二人の会話は次のようなものになる。
倭建 : …、幾夜か〔ヨウ・か〕寝つる。
老人 : 日日〔カカ〕、並〔ナ〕べて、
   夜〔ヨウ〕には九夜〔ココノ・ヨウ〕、
   日〔ヒルマ〕には十日(ツツカ)を。

倭建命が云うところの「夜〔ヨウ〕か」の音を「八日〔ヨウカ〕」に掛け、直ぐさま、

日日〔カカ〕並(七)べて、
夜(八、世)には九の夜(九重、安定)
日(王家)には十日(ツツカ=永遠)を。

〈世々カカを連ねて、大王の時代は安定し、王家は永遠です〉と返すのである。

 

*王族の者にとって、揺るぎのない大王の治世と、千代に八千代に継承され続ける王家である事は最重要課題であり、これに関する縁起の良い言葉は何よりも嬉しいものだった。

老人は、これを七・八・九・十、と数字を並べた言葉遊びをしながら、瑞祥の辞を著して見せたのです。倭建命はこの機転に先ず感心をし、またその出来栄えに甚〔イタ〕く喜びます。
長らく笑っていなかった倭建にとって、心を和ませてくれた一時〔ヒトトキ〕だったのでしょう。

A:「何か用か(七日,八日)…。」
B:「九日,十日。」

この言葉遊びの始まりがここにある。

 

※細かい事を云うと、ヨウ(夜)の音はカから転じたイァウ→ヨウであり、ヨオカ(八日)のヨオはヤツの音便によるヨウです。

  • カ→ キァウ→チァウ→イァウ(ヨウ)
  • ィアツ→ヤツ→ヤフ→ヨウ

元の音は全く違うが耳には同じ語呂であり、音遊びをする上で、何の不都合も有りませんね。