14-1「葛野」「佐野」

地名国名[032]
14、カツノ〈1/2〉

◇「カツノ」
 良い空間、優れた土地、拓けた地域、また王城の地などをカツノという。葛野〔カヅノ、カドノ〕、神野〔カツノ〕、交野〔カタノ〕、角野〔カドノ〕などの地名として残っている。

これに接頭語のキツが乗り、キツ・カツノと呼ばれます。この音がヒラ・カタノ(枚方野)と転じる。或いは、ヒサカタノ(久堅乃、など)も、これが元の語だったのではないか。

すると、ヒサカタノが「天」に係る枕詞になってる理由も頷けます。天〔アメ〕とは王の居住地をいいます。この場合、ヒサカタノの「ノ」は格助詞ではなく「野」を意味します。

 

*立派なカツノはカツ・カツノです。このカツがハルに転じたハル・カツノの音に「春・日ツ野」の表記が為される。また、カス・ガツノの音にもなり、春日をカスガと読む元になる。

※ただし、日の字はキとカの二つの読み方があり、キツノ(ヒツノ)の音に「日野」の文字を用いる事もある。よって、全国に有る日野について即断は避けたい。

 

◇「カサノ」
 カツノがカサノと転じ、穢れ無き土地、清浄な場所を表わす呼称として使う。「サ」とはそういう音である。

カツノ(葛野、神野など)が比較的に “ 広い範囲の地域 ” を云うのに対し、サノ(佐野、狭野)は城柵などによる “ 囲まれた敷地 ” の内側をいい、一般的に王(首領)の居住集落をいう。

 

*「サノ」
 カサノからカを省いて、サノの音で使う事が多く、この音に佐野という字を充てた地名は全国にある。佐野の名を持つ土地が、かつてどういう場所だったかは、容易に想像がつきますね。

万葉集》巻三(二五六)の歌。
 苦毛 零来雨可   苦しくも 降り来る雨か
 神之崎 狭野乃渡爾 カミのサキ サノの渡りに
 家裳不有国     家も有らなくに

この歌にある神之崎や狭野を、多くの解説書が和歌山県にある同地名の場所とする。それを否定するものでは有りませんが、大阪の北摂地域にある神崎から難波崎(佐野)に渡ろうとしている人の歌、という解釈で良いのではと思う。難波崎(上町台地)もかつて佐野であった。

 

◇《書紀》一書曰に、磐余彦尊(神武)の幼名として狭野尊とある。神武天皇はサノと呼ばれる守られた所(環濠城柵・集落)で生まれ、此れを幼な子の呼び名にされたのでしょう。