地名国名[029]
12、キツ・カツラ〈1/2〉
◇「ユツ」という語
様々な単語に定番の接頭語・キツという音が付けられて使われます。キは色々な音に転化しますが、キ→キゥ→チゥ→イゥ(ユ)の音転ルートで、しばしばヤ行音にも移ります。
これに依りキツがユツの音となって、ここでは湯津の字が充てられます。
▽「湯津ツマクシ」
伊邪那岐は黄泉国から脱出すべく、出口に向かって走る、走る。しかし、豫母都志許賣がしつこく追いかけて来る。その一場面に次のような描写があります。
《記》
亦 刺其右 御美豆良之
湯津津間櫛 引闕而
投棄 乃生笋
是拔食之間 逃行
◯亦、其の右のミミヅラに差しし、ユツ・ツマクシ引き欠きて、投げ棄〔ウ〕てば、乃わち笋〔タケノコ〕に生〔ナ〕れり。
(志許賣が)これを拾って(抜いて)食ってる間に(伊邪那岐は)、走る、走る。
*「湯津・津間櫛」を意味に則して書けば、多・爪串(多くの・先端、細い棒)でしょう。櫛の始まりは正に一本の串でした。そのうちに二股に分かれた物や、フォーク状の物も出てきました。
そんな中、沢山の串が並んだ最新の櫛が登場します。その形は筍を縦四分割に切り、縦スライスして煮た「筍のたいたん(煮物)」に似てました。
▽ちなみに「湯水の如く」
制限を設けないで出費を繰り返す事を「湯水の如く、金を使う」などと言いますね。漢字の意味をそのまま受け入れれば「湯や水のように」になります。
水のようにジャブジャブ使う、という表現は分からなくも無いですが、湯も同じように扱うでしょうか。お湯を作るためには燃料が必要、つまりダダではないのです。少なくとも、時間と労力を要します。
或いは、温泉地に湧き出る湯を言ってるのでしょうか。「湯水のように…」とは温泉地で使われていた言葉だった、という事か。
*こんな風に考える事もできます。湯水とは「ユツ・ミ」〈潤沢な・水〉というのが始まりの言葉だった。「ユツ・ミ」なら節約の意識など持つ必要は有りません。
このユツ・ミの音に「湯ツ水」の字を充てた。この考え方でいけば、湯の字はユの音に充てただけの仮名字であり、字義を求めてはいけない、という事になります。
これが、いつしか湯水となり、「お湯」と「お水」の意と解釈されてしまった、か?
◇「湯津カツラ」
「湯津〔ユツ〕」は、潤沢、豊富、といった意を持つ言葉です。湯津カツラとは、即ちユツ・カムラ「豊か村」を意味する語になります。
ユツ・カ(豊)は、ユツ・カ→ヨウ・ケ(沢山)にもなる言葉です。よって、この時点でユツ・カムラは普通名詞であり、まだ村の固有名ではないでしょう。
*「大国主の国譲り」の条。
葦原中国を平定させるべく遣った天若日子(紀では天稚彦)が戻って来ないので、鳴女(紀では雉)に様子を見に行かせる場面を記紀では次のように書く。
《記》「鳴女 自天降到 居天若日子之門 湯津楓上而…」〈鳴女、天より降り、天の若日子の居りし門〔カド〕の、湯津楓〔ユツ・カツラ〕の上に到りて…〉
《書紀》「其雉飛降 止於天稚彦門前所植 湯津杜木之杪。杜木、此云可豆羅」〈その雉、飛び降りて、天稚彦の門前〔カドサキ〕に植えし、湯津杜木〔ユツ・カヅラ〕の杪〔エダ〕に止まりつ。杜木、此れをカヅラと云う〉
*「火遠理命」の条。
弟火遠理命(山佐知)が塩椎神に教えられて、船で向かった先に宮が有った場面。
《神世記》
卽 登其香木 以坐 其カツラに登り以て坐す。
爾海神之女 ここにワタツミのムスメ
豐玉毘賣 之從婢 トヨタマビメのウネメ
持玉器將酌水 之時 玉器持ち水酌まんとなす時
於井有光 仰見者 井に光あり、仰ぎ見れば
坐有麗壯夫 麗しきヲトコありましき。
《記》「傍之井上 有湯津香木。…訓香木云加都良。木。」〈傍らの井の上に、湯津香木〔ユツ・カツラ〕がある。…香木の訓みはカツラという。木(の名)。〉
《書紀》「門前有一井。井上有一湯津杜樹。」〈門前〔カドサキ〕に一つの井有り。井の上に一つの湯津杜樹〔ユツ・カツラ〕有り。〉
また、一書曰⑵「門前有一好井。井上有百枝杜樹。」〈門前に好〔ヨ〕き井一つ有り。井の上に百枝の杜樹〔カツラ〕有り。〉
*これらに見るカツラ(またカヅラ)は、植物(樹木)になっています。地名を文字で表そうとする時、同音の植物があればその字を使う、上代にあっては日常の事ですよね。
こにあるカツラは、全て集落(一つの社会)を表しているのであり、ユツ・カツラとは、豊かな集落を意味します。
先進的な文化を持ち、裕福で平和な文明社会、という意味で使われていたのでしょう。
*使う文字について、《記》では楓、香木、《書紀》では杜木、杜樹など、植物のカツラを表わす文字を借用していますが、単なる装飾表字に過ぎません。
ただ、これらの文字を使う事で、後世の人達に誤解が生じる。カツラは植物として扱われ、「樹上」に坐す神の話が創作されてしまいます。お噺〔はなし〕として面白く伝わるうちに、記紀にある筋書きになっていった、という事でしょう。
(※注:「ムラ」という語は、カツラ→カブラ→カムラと転じた後、カムラからカが落ちてムラとなる。ムラという呼称は、こんな音転ルートで出来た言葉です。/「村」地名国名[028]の項、参照。)
*火遠理命は、先進地・湯津香木〔ユツ・カツラ〕に至り、海神〔ワタツミのカミ〕より「授鹽盈珠・鹽乾珠、幷兩箇」〈塩満珠と塩乾珠、併せて二個、授かり〉地元に帰っくる。
▽ちなみに、少しザレゴト。
キツはイツ→イスになり、カツラはカダルに転じます。カダルのカがカンと撥ねたらカンダルという言葉になる。(※カツラの転化形の一。太古、人は人間に脅威となる動物もカツラと呼んだ。インドネシアでは大トカゲをカダルという)
これにより、キツ・カツラの一つの音として、イス・カンダルという語が出来てしまいます。そしてこれは、ユツ・カツラと同じ意味を持つ呼称でしょう。
*火遠理命は、湯津香木〔ユツ・カツラ〕から鹽盈珠と鹽乾珠を持ち帰ります。
宇宙戦艦ヤマトは、湯津香木〔イス・カンダル〕から放射能除去装置を持ち帰る、という事でしょうか。
-
イスカンダル(Iskandar)は、古代マケドニア王国・アレクサンドロス大王のペルシャ語やアラビア語における呼称。
-
ドイツ語風に読んでアレクサンダー(またアレキサンダー)という。《Wikipedia》
◇ここではイスカンダルと、アレクサンドロスまたアレキサンダーは同名としています。しかし、前者はキツ・カツラ→イス・カンダル、後者は元の音がちょっと違う。
恐らく、アツ・カツラ・キ、ではなかったか。
アツ・カ ツラ・キ
アヅ・カサ ダル・シ
アル・カサン ドラ・ス
アレ・クサンドロ・ス
日本にもカツラギ、カブラキ、またカムロギといった呼称があります。本来は首領、村長〔ムラオサ〕だが、王といっても良いでしょう。
▽もう、少しタワゴト。
世界の国名の中には、末音がニァ、ヒァ、ビァ、シァ、など付くのがあります。元は土地を表わす「カ」です。
ユツ・カの、カ(クァ)が、ハ(ファ)になり、ファ→ヒァ→ピァと転じれば…、
ユツ・カ→ユト・ピァ(Utopia)になる。
ユツがユロになればユロピァ(Europa)になる。
カツラのツがタに変わってカタラ、カが撥ねてカンの音に成れば…、
カツラ→カンタラ→ガンダーラ(Gandhāra)に、、、なってしまう。ガンダーラはユートピア、誰かの歌に有りましたね。
言ったでしょ、タワゴトだって・・・。