12ー2「日下村」

地名国名[030]
12、キツ・カツラ〈2/2〉

「キツ・カツラ」
 人家が集まっている所を表わす呼称として、キツ・カツラは基本形ですが、音も表記も色々に移ります。そして、時代が下ると共にそれぞれの固有地名になっていく。

現在でも北村、稲村、白村、木村、日村、井村、志村、などの苗字や地名があります。これらの文字も元を辿れば、キツ・カツラの音に始まります。

キタ(北)、イナ(稲)、シラ(白)、ヒツ(日ツ)、イツ(井ツ)、シツ(志ツ)、などは皆キツから移ってくる音です。これらがカツラ(村)の頭に付きます。

重要なのは、使われている漢字の意味ではなく音です。北村は北側にあった、稲村は稲田があった、という環境にはあったのでしょう。しかし、キツ・カツラという音があったから、これらの文字が使われたのです。

 

「日下村」
 日下村は、日下〔クサカ〕という名の村〔ムラ〕、ですよね。それが、どうしたんですか?

言葉の始まりの頃、村はカツラと云ったが、その後カムラの音になる。ところが村の字は何時しかムラの二音で読まれるようになります。しかし、昔から使われ続けているカムラの音が消える事はありませんでした。

そこでカの音を表すべく、加伽迦香下などカの音文字が嵌められる。記紀では次の字を使う。

 キツ・カツラ→キツ・カムラ。またヒツ・カムラ。
        日ツ  下 村(記)

       →クサ・カムラ。
          草 香 村(書紀)

*キツの音に「日ツ」が、カツラに「村」の一字が充てられ「日・村〔キツ・カムラ〕」でした。これにカの音を持つ字が入る事になるのですが、ここでは「下」を選び「日・下村」になりました。(※ツは省き字)

この時点ではキツカムラ、またはヒツカムラです。クサカムラには成りません。

*別の所でキツはクサと転音し、この音に草の字が充てられます。そしてカムラのカの音に、《書記》では「香」を使い「草・香村〔クサ・カムラ〕」と表記されました。

その後、表記は日下、音はクサカ、という事になります。共にキツ・カの音を元としますが、日下とクサカが、直接繋がるものでは有りません。

この表記と音は別の地域、或いは別の時代に生まれたと思われます。初期の日本語に於いて、日の字はキとカの二通りで、クサと読むのは見ないです。

 

*「日下村」の表字は、難波崎(現・上町台地)側から見て、日が昇る生駒山の麓〔フモト〕に位置する地。そこからの発想でしょう。

難波に王宮が置かれたのは、応神(大隅宮)、仁徳(高津宮)、履中(難波宮)、欽明(祝津宮)、孝徳(長柄豊崎宮)、聖武難波宮)などあります。

キツカムラの音に日下村の字を充てたのは、この中の何処かの時代でしょう。キツ・カは原音でありクサ・カより古い。よって、欽明天皇あたり以降の可能性はほぼ無い。

《神武記》「泊青雲之白肩津(略)於今者云日下之蓼津也」〈青雲〔アオクモ〕の白肩津に船を接岸した。…今は日下の蓼津と云う〉
《書紀》「河内国草香邑 青雲白肩之津」とも書かれますが、これはもちろん神武の時代に書かれたものでは無い。そもそも、文字自体が無かったでしょうから。

 

湯桶読み
 カツラやカムラは、第一音のカが色々な音に転じて使われ始めます。(他の呼称、カシマ→カヤシマ、カヤマ→カムヤマ、カサキ→カナサキ、などと同様に)

カムラもまた、カツムラ、カタムラ、またハタムラなど様々です。すると、この変化した音を表さなくてはいけない。例えば、勝村、片村、幡村、…など。

キツ・カツラがヒラ・カタムラと転じ、この音に「枚方村」の字があてられた地を、今は枚方〔ヒラカタ〕と呼んでますね。

その結果、村の字はムラとのみ読むようになります。それは元のカムラにも及び、カムラのカを表わす文字を充てなくてはいけなくなります。

キツ・カツラからクサ・カムラと転じた音に、始めは草・村〔クサ・カムラ〕の字を充てます。しかし、その後「カ」に加の音文字を入れて「草・加村」になる。草〔くさ〕と村〔ムラ〕の字は訓読みですが、加の字は音読みです。そして、村の字は普通名詞として切り離され、地名として草加が使われます。

これに依り、草加〔くさ・カ〕は “湯桶読み” になります。カは音のみを表わす仮名文字として嵌め込んだだけに依るものです。(※但し、全てが湯桶読みになる訳ではない)

ずっと後の時代になって、草加をソウカと二字共に音読みする地域も出て来ますが、多くの場合が他所からの拝借地名のようです。

 

◇或る説に「日本という国号は日下からきている。」という主張があります。「下」の字はモトとも読むので「日ノ下」はヒノモトであり、これが後に「日の本」となる。…という事らしい。

惜しい。掠〔かす〕ってる。だが外れてる。日下はカツラ(村)であって、カツマ(国)ではない。

優れたカツマはホツマと呼ばれます。「本」の字はホの音の仮名であり、アキツ・ホツマの音に対して「大日ツ・本国」が充てられたのです。
よって、キツ・カツラの「日ッ・下村」とは、掠ってるけど、外れてる。この二つは別です。