2-3「オノゴロシマ」

 

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地名国名[007]
2、カツマ〈3/3〉

◇「オノゴロシマ

 二神(伊邪那岐伊邪那美)は、国生み神生みをするにあたっての産屋を設けるため、先ず神聖な仮想空間(カツマ)を造ります。

天の沼矛を潮に差し入れ掻き混ぜて引き上げた時、その矛先から滴り落ちる潮が、自然に凝〔コ〕りて島となる。よって、これを自凝島〔オノゴロシマ〕と云います。

それはそれとして、名の由来は別にあります。

かつて水地だった所にできた平地をカラツマといいます。カツマのカがカラと膨らんだ音で、その頭にヌが乗り、ヌ・カラツマ(ヌカラシマ)になる。

川が運んできた土砂が海に堆積して次第に水深を浅くしてゆく。海底面はいつしか水面に達し、かつて海だった所に砂地ができる。初めのうちは潮が引いた時だけ現れていたのが、そのうち満ち潮でも水没しない陸地・ヌカラツマ(州)になる。

ヌの音には更に予唸音・ンが付き、ンヌカラツマになり、→ンヌカラツマ→ウヌコルシマ→オノゴロシマと転じる。この音に淤能碁呂嶋(古事記)や磤馭慮嶋(書紀)の字が使われるが、文字に意味はなく、仮名表記による全くの充て字です。

オノ(ウヌ)の音に「自」を、コロ(コル)の音に「凝」を充て、自凝嶋(自ずと凝る嶋)という表字は意味がピッタリ嵌まります。あたかも、この字と意味が先に有って出来た名、という印象を持ってしまいますが、これもまた充て字です。

コンクリートに混凝土の字を充てたようなもので、よく出来てはいるが文字先行の名称では無い。

 

 

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◇「能古島

 博多湾に浮かぶ能古島は残島ともいったようです。おそらく嘗〔かつ〕てはオノコロシマと呼ばれていたのでしょう。

ヌ・カシマがノコシマと転じた音に、能古島の字を充てたとは思うが、音を見るとオノコロが短縮してノコ(能古)に成り得ます。また、ノコロがノコリ(残)になったと見ることもできます。

ここは堆積土によって出来た島ではありませんが、湾沿岸部に暮らす人達にとって「あの島に神が降り立った」と思わせるのに、不足のない環境ではあります。

 

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◇「沼島

 淤能碁呂嶋の候補地としてよく上がる名が、淡路島の南に浮かぶ沼島です。沼島はヌシマと読みますが、この文字が最初に使われた時の音は、ヌカシマ(ヌカツマ)であっに違いない。

ヌの音に沼を、カシマ(カツマ)に島の一字が使われる。この表字を見ても、この島が如何に古くから人々に認知されていたかが知れます。少し時代が下った表記なら奴賀嶋〔ヌカ・シマ〕の様な書き方になっていたでしょう。

オノゴロシマの始まりの音がヌカシマと考えれば、淡路島のすぐ横にあるこの島が有力候補地であることに、なんら不思議はないですが…。

ただ、ヌカシマは普通名詞だったので、日本中いたる所に有った名であることは知っておく必要があるでしょう。つまり、オノゴロシマの候補地は、海に突き出た岩島、ポツンと浮かぶ小島、また河口州や海面に現れた堆積州も含めて、無数に有るという事です。

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