3-5 「伊都国」「瑞穂国」

地名国名[012]
3、キツ・カツマ〈5/5〉

◇「伊都国
 キツ・カツマ→イト・カシマ
        伊都 国

 所謂、魏志倭人伝と呼ばれる書物の中には、キツ・カツマが元の音と思われる国名が多く見られますが、伊都国もその一つです。博多湾糸島半島があり、この辺りと云われています。

全国の古い地名の中で、糸の字を使っているのは元の音がキツだったと考えて差し支えはないでしよう。糸川はキツ・カファ→イト・カワ、糸原はキツ・ハラシマ→イト・ハラ、という具合です。

よって、イトの音を持つ糸島や伊都国もキツ・カツマが元の音であるのは、ほぼ間違いのないところですが、それは同時に何処にあってもおかしくない地名でもあります。

※伊都の「都」の字はの音に使われるので、或いは「イツ国」だったかも知れません。イツ・シマのカがクに転じて、イツ・シマ(厳島)という地名も有りますね。

 

▽ちなみに。
「イト」という音の成り立ちには、二つのパターンがあります。(共に、先のキはイになる)
1、キツキ→イツト→イト。後ろのキがトになり、ツが省略される。
2、キツ→イツ→イト。ツがトになる。

*針はカツキ→ハツリ→ハリ、糸はキツキ→イツト→イト、と転じた音。よって、針とセットになる糸は1のイトです。

ただ、1・2とも同じ音(イト)なので、2のイトにも糸の字を使います。

 

◇「瑞穂国
 キツ・カツマ→ミヅ・ホツマ
        瑞 穂 国

 キツの音はミツやミヅに転じますが、ここではミヅの音に瑞の字が、ホに穂の字が充てられる。水田が広がる豊かな良い土地をいいますが、特定の国をいうものでは無いでしょう。

地名として使う場合のミツには三や水の字が充てられる事が多い。国の字はカツマ(カシマ)ですが、ここではカがホに成り、この音を表すために穂が使われます。よって、ここでの国の字はカツマからカを除いたツマ、またシマと読みます。

 

*「ホ(フォ)」という音
神聖なモノや崇高なモノを表わす時、語に含まれるカ(クァ)行音は、ホ(フォ)の音に変えて使われることがあります。(クァ→クォ→フォ、またクァ→ファ→フォ、と移る)
◯キノヲ→ホノヲ(火の尾=炎)◯キツ川→ホヅ川(保津川)◯カラ・アナ(大穴、また空穴)→ホラアナ(洞穴)◯イナキ→イナホ(稲穂)◯カツキ→ホツコ(矛)◯カツキ→ホトケ(仏)
◯カツ・アレ→カム・アレ(優れ・者)→ホム・アレ→ホマレ(誉)◯マツ・カラツマ→マツ・ホロツマ→マ・ホロマ(麻本呂婆)…など。

この様な例は幾らでもあります。同様に素晴らしいカツマはホツマと呼ばれる。

 

この地域へ最初にやって来た人達は、南方の民族だったでしょう。(東南アジアの島ではなく、大陸の南部)日本列島や大陸の海側には同じ言語文化を持った人が、広範囲に亘〔わた〕って住んでいたと思われます。その中の南部に住む部族が支那に稲作を持ち込む。

稲は熱帯性の植物ですが、当初は麦などと同様に畑栽培でした。そのうちに水田方式が作られます。日本も最初は畑作の稲だったといいます。

水田方式が日本にも伝わると、この生産技術は列島内(西日本)の各地域へと瞬く間に広がってゆく。秋になると瑞々しい稲穂がたわわに稔り、風に揺れる黄金色の風景を持つ集落が、そこ此処に見られるようになりました。

この美しく豊かなキツ・カツマは、転じてミヅ・ホツマと呼ばれ、この音に瑞穂国の字が充てられます。

のちに大陸北方に住む獣肉食民族(汗族)が東進南下し、キナ・カシマ(支那・国)にあった先住の人々の瑞穂国は次々に喰い荒らされてゆく。
日本列島にも侵食して来る事になりますが、海に隔てられた環境が邪食指を伸ばしきれない濠となりました。

注:「支那」キツ・カツマ→キナ・カシマと転じた音に支那・国の字が充てられる。上記でいう支那は大陸にあった国々の総称として用います。特定の国を指すものでは有りません。