2-2「ぬ島」

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地名国名[006]
2、カツマ〈2/3〉

 

◇「ぬカシマ」

 ヌ・カシマとは、水に囲まれたやや小さな陸地の基本呼称です。カシマは下名に置かれる語なので、予唸音・ヌを付けてヌカシマと呼ばれることがしばしばあります。淡路島の南にある沼島は、ヌカシマのヌの音に沼の字を充てたのでしょう。今はヌシマと読みます。

野島〔のじま〕と呼ばれる地がある。上代に於て、野の字の訓読みは「ノ」ですが、仮名として「ヌ」の音に使われる文字です。よって、野島もまたヌカシマの表字だったと思われます。

或いは、形や環境から、ナ・ガシマ(長島)、ナ・カシマ(中島)などの字も使われるが、これらの漢字は他の要素が加わって、後に充てられた文字でしょう。

長島は長い島だったり、また長〔おさ〕の島だった。中島は中と呼ぶ位置環境にあった。それに即した文字が各々充てられた。ただ、そうだとしても、始まりはヌカシマの音が先ず有ったのではないでしょうか。

 

 

◇「ヌバタマ」

 ヌ・カツマ→ヌハツマ(ぬばたま)。歌などで黒に係る枕詞として使う。ヌは予唸音ではありますが、それとは別に湿気や粘状(ヌ・メリ、ヌルヌル)を表わす音でもある。

粘の旧字「黏」の左側「黍」は穀物のキビを表わすが元は黎でしょう。黎の字は黒の意を持つ。黎明はまだ夜が明ける前の時間帯、といった意味があります。漆〔うるし〕は少し字体が異なるが元は同じ黒の意です。

これらは全て黒また粘性の意を共通して持っており、これを古語で「ヌ」というところから黒や夜を表わすようになる。
黄泉の空間は、腐敗の膿のイメージから黄の泉と書き、ヌのカツマであるところから、ヌ・カツマ→ヌ・ハタマ(ヌバタマ)になる。

かつて瀬戸内に面した集落では、沖合に浮かぶ小さな無人島を埋葬の地として使う事がありました。高齢者の中には小島をヌマシマと呼んでいた人が居ました。そんな無人島からは、ときどき甕棺が見つかります。

[007]へ、つづく。