神名人名・7「超優越」

[011]
7、アツ・カッキ

①「アツ・カツキ」とは。

太古の人類語で、通常「人」を表す言葉ばキツ・キツキといいました。それに対して、平均より上位にあるモノをカツキといい、更にアツ(大、秀、などの意)が頭に乗った語が、アツカツキです。

よって、この語は偉大、強力、超越した、などの存在を示す呼称となっていきます。

 

◇アツ・カツキ〈其の一〉
 この世(地球上)の始まりの頃は、空(気体)と海(液体)しか無かった。その後、海の中に原始クラゲのようなジェル状の半固体物質が発生した。後に土や陸地になってゆくこの物質と、始祖となる司るモノを、アツ・カツキ・キ(優れた・硬いモノ/司るキ)と呼んだ。

この音から、アツがアシに転じる。カツキの第一音・カが →カフ→カブ(カビ)と膨らむ。ツキがフキ→ヒコになり、カブツキ→カビヒコと転音する。後ろのキが、→チ→ヂと変わり、アツ・カツキ・キが、アシ・カビヒコ・ヂという名で呼ばれるようになる。

さらに最高のモノに付く接頭語・マツ( ンマツ→ウマシと転じる)が乗り、宇摩志阿斯訶備比古遲(古事記)と表記される。

   マツ・アツ・カ ツキ・キ
  ンマツ・アツ・カブフコ・チ
  ウマシ・アシ・カビヒコ・ヂ
  字摩志 阿斯 訶備比古 遲

この神を基として土の神が生まれる。土(ツチ)の原音はツキツキといい、これがトコタチと転じて常立の字が、ソコタチの音には底立の字がそれぞれ充てられる。アイヌ語で土をトウイ・トウイ(toi toi)と云うが、これも元はツキツキから転じた音と思われる。

これら陸地を作るツチ(土)の太祖(素)となる神が、海の中で自然に形成された個体神、アツ・カツキ・キ(アシカビヒコヂ)である。

よって、《書紀》が初めて顕れる神として、天之御中主よりも先に、常立尊や底立尊を並べる扱い方は不審である。これらは五柱神の末席か、神世七代に含まれるべき神である。

 


アツ・カツキ〈其の二〉
 アツ・カツキ→アヤ・カシコと転じる。ここでのカツキは知性に於いて「勝るモノ」の意味に使われる。

アヤはアツから転じた音、カシコの音は現代でも同様に「賢〔かしこ〕い」という言葉を使うが、これはカツキ・キ→カシコキ→かしこい、と転じてできた語である。

《記》に、於母陀流〔オモダル〕神・妹阿夜訶志古泥〔イモ・アヤカシコネ〕神。

《書紀》に、面足〔オモダル〕尊・惶根〔カシコネ〕尊。吾屋惶根〔アヤカシコネ〕尊。忌橿城〔イムカシキ〕尊。青橿城根〔アオカシキネ〕尊。吾屋橿城〔アヤカシキ〕尊。

多少の音の違いはあるが、これらはアツ・カツキが基本にあっての地域差・時代差、また伝承時のズレに因るものである。

オモダルとは意識の発芽、アヤカシコは知性の創始。色々な考えが湧き出てくる思心や智感をいう。原音は、ンモイ・ツツ・ル・アツ・カツキ(意識・出る・とても・偉大なモノ)であったろう。これもまた当初、一神の名であったが後に二神(一対)に分けられたと思われる。

 


アツ・カツキ〈其の三〉
 カツキという語は様々な音に変化して使われるが、その転化形の一つにファントというのがある。

カツ(クァツ)が、クァブ→ファム→ファンと移り、キがトに変わる。これにアツが、→アル→エレと転じて頭に乗り、アツ・カツキ→エレ・ファント(elephant)という言葉ができる。

象は地上で最も大きな生き物である。此処でのカツキは、体の大きさという点で「勝るモノ」の意であり、アツ・カツキ(エレファント)は「とても・大きな生き物」という意味になる。

 エレファントと良く似た音の言葉に、エレガント(elegant)というのがある。この音も元を辿ればアツカツキである。では、エレガントな女性とは “象のような女” という意味か。

勿論そうではない。此処のカツキ(ガント)は、容姿の点で「勝るモノ」であり、綺麗な人を表わす。これにアツを付け、アツ・カツキ→エレ・ガントと発音されると、単に見た目だけではなく、立ち居振る舞い、また品位といった内面も含めた全体としての「優雅さ」を表わす言葉となる。

 日本にも此の手のアツ・カツキという言葉がある。日本語の場合、カツキはカシキやクシキと発音される。これにアツからウツに転じた音が乗り、アツ・カツキ→ウツ・クシキ(美しき)という語になる。

また、ウツがウルになり、カシキ→ファシキと変って、ウル・ファシキ(麗しき)という言葉も使われる。

或いは、カツキの後ろにキ(助詞)が付きカツキ・キという表現になり、これがクツキ・キ→クキ・キ→クシ・キに転じるという形もあるが、何れにしてもカツキが元にある。

…どういう事だろうか。アフリカと欧州圏の言葉が似ているのは、その物理的な距離の近さを見れば頷けるが、日本は極東の沖にある島である。何故この地にも同様の言葉が有るのか。

加えて不思議なのは、アツ・カツキが原音とした場合、日本語のウツ・クシキや、ウル・ファシキが比較的その音を色濃く残しているのに対し、アフリカ語のエレファント、欧州圏語のエレガントは原音からかなり離れてしまっている。

これは、もしかして人類語の発祥地は日本なのか。そんな事は有り得ない。この奇妙な現象に付いては、それほど難しい説明を要しない。

言葉とは、その発信地から遠く離れれば離れるほど古い時代の音が残っている、という言語伝播の一つの有り事(法則)を具現しているに過ぎない。

人類語を遡って行くと一つの群れに行き着くだろう。何らかの理由で群れから抜ける人も出てくるが、初期に群れから出た人達は初期の言葉を持って移って行く。これが繰り返され、彼等の子孫によって初期の言葉が遠くへ遠くへと運ばれてゆく。

日本という地は人の移動の一つの終着点であり、また、四方からやってくる異民族同士が肩をぶつけ合いながら通過して行くといった、交差点のような乱雑な場所でもない。

この環境によって、数万年という時を経てなお古い時代の言語の一部が、それほど損傷する事なく残ることになる。

奇蹟と云えば少々大袈裟かも知れないが、少なくとも人類言語の起源を調べる上で、日本語は貴重なサンプルである事には違いはないと思う。

南太平洋地域や南北アメリカ大陸にも初期的な音を残した言語が存在していたであろうが、長い植民地の時代を経た今は壊滅状態にある。また絶滅した言語も少なくない。

 

 

アツ・カツキ〈其の四〉
アツの頭にイが付き、ィアツ(ヤツ)になり、カツキが →ホツコと転じて、アツ・カツキ→ヤツ・ホツコという音で呼ばれる者がいます。

  アツ・カツキ  ○元の音。
 ィアツ・カツコ  ○頭にイが付く。
  ヤツ・ホツコ  ○カツキがホツコに。
  ヤチ ホ コ  ○ツの音を省く。
  八千  矛

アツ・カツキは地域の首領、つまり王といっていいでしょう。アツに大、カツキに神、という字を当てれば、アツカツキは「大神」になります。(ただし、大御神とは別)

ヤチホコと転じた音には八千矛の字が充てられます。字面を見れば「多くの矛」(軍事力)を持つ者、となります。ただ、この語にはもう一つ、ちょっとした裏の意味「多妻者」というのが有ります。

 

 

②「アツ・カラツキ」とは。

 カツキのカが膨らんでカラツキになり、さらにアツが乗ってアツ・カラツキと呼ばれる人がいる。

恐らく何かの点で凄い人を指すのだろう。頭脳なのか容姿なのか体の大きさなのか、或いは全く別のモノなのか。

結論を言ってしまうと、アツ・カラツキとは戦闘員を統率する武将で、将軍また総帥に該当する立場の人と考えられる。それはこの者の一般的呼称に依り推し量ることができる。

初めは、アツ・クァラツキ・ツキであったが、これが転化してアシ・ファラシコ・ノヲと呼ばれ、この音に葦原色許男の字を充てる。敵対する者からは侮蔑的に葦原醜男と書かれる。

彼はのちに首領(アキナヌシ=大国主)となる。《記》に須勢理毘賣が父親に「甚麗神來」〈麗しき神来たり〉と云うと、その父須佐之男はその男を見て「此者、謂之葦原色許男」〈此れば、アシファラシコのヲ、と謂うぞ〉と答える場面がある。

甚・麗(ウル・ファシキ、またはイト・ウルファシ)と、葦・原色許〔アシ・ファラシコ〕との違いは有るが、共に元に有るのはアツカツキでありアツカラツキである。

大穴牟遲神(葦原色許男の別名)は八十神に何度も殺されるのだが、そのたび女性達によって助けられる。これはアツカツキという呼び名にあるもう一つの意味 “超・美男子” というのが含まれているからではないか。

それにより大穴牟遲神は、とにかく女性によくモテるのである。或いは、これを妬む連中が、わざわざ醜男の文字を使ったのではないかと勘繰ってしまう。

古代の或る時、美形の男を主人公にした「甚麗男〔ウルワシキ・ヲ〕物語」のような伝承話、また書き物が有ったのかも知れない。平安時代になってもその一部が残っており、此れを紫式部も見ていたか。

 

▽ちなみに。カラツキがファラツヲと転じて、ここからツの音が落ちればファラオ(古代エジプトの王)という語になるが、偶然か?

[ヲグナ]