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6、アキツキ〈3/3〉
◇「大国主の亦名」
《古事記》(五つの名)大國主神。大穴牟遲神。葦原色許男神。八千矛神。宇都志國玉神。
《日本書紀》(七つの名)大國主神。大物主神。國作大己貴命。葦原醜男。八千戈神。大國玉神。顕國玉神。
《旧事紀》(八つの名)大己貴神。大國主神。大物主神。國造大穴牟遲命。大國玉神。顕見國玉神。葦原醜雄命。八千矛神。
《粟鹿大神元記》(八つの名)大國主命。大物主命。意富阿那母知命。葦原色袁命。八千桙命。宇都志國玉命。幸魂辞代主命。八嶋男。
《因幡国伊福部臣古志》(八つの名)大己貴命〔於保奈无知命〕。大國主神。國作大己貴命。葦原醜男〔志己乎〕。八千戈神。顕國玉神。大國玉神。大物主神。
《万葉集》於保奈牟知。大穴道。大汝。
《出雲風土記》大穴持。《延喜式》大名持。於保奈牟智。《文徳実録》大奈母智。《三代実録》大名持。
◇「主人」
アは大、キツキは人。よって、ア・キツキは大人〔ダイジン〕=集団を統括する者、という意味になる。家族なら世帯主をいい、国なら王を指す語です。
此処に並んだ名の大方はアキツキ・カツキの音を元とするが、大王というより多くは地方豪族である。それは大国主の名も例外ではない。
或る地域をカツマといい、大集落の領地、また複数の小集落の連合体テリトリーを、クニシマと呼んでいた時代から、その長〔おさ〕はアキツキであった。また、ツツ・ヌキとも云う。
部族の違いによる発音の違い、或いは呼び方そのモノの違いが表記の違いとなるのだが、記紀では亦名として並べられる。一人の人物が複数の名を持っているのではない。
*「葦原色許男」
この名の元音は、アツ・カラツキ・ツキ〈アシ・ファラシコ・ノヲ〉です。その地位は武将であり、王では有りません。
天智天皇が鎌足に授けた姓〔カバネ〕である「藤原氏」が、カツ・カラツ ンキ〈フジ・ファラツウヂ〉であるのに似ている。こちらは大将軍(武将の最高位)の意です。ただし、鎌足の場合は賜った三島の地の領主でも有りました。
だからと言って、鎌足が王という訳ではない。“賜った地”の領主、謂わば支店長であり、オーナー社長(王)では無い。もしかしたら、葦原色許男もまた、そんな感じ、だったかも知れませんね。
*「その他」
《出雲風土記/盾縫ノ郡》にみる、天御梶日女命。
アキツミ・カツキ・ツメ→アメツミ・カジヒ・ツメ
天 ツ御 梶 日 ツ女
《尾張國風土記》にみる、阿麻乃弥加津比女。
アキツミ・カツキ・ツメ→アマツミ・カツヒ・ツメ
阿麻乃弥 加津比 ツ女
◇本来の音は、アキツミ・カツキ・ツメ(王の・妻=妃)である。これが出雲國では、アキツミ・カジヒ・ツメと転じ、当初は「天ツ御・梶日・ツ女」だったのだろう。後に「天・御梶・日女」の切り方をしまい、アメノ・ミカジ・ヒメ、と読ませる。
また尾張國では、アマノ・ミカツ・ヒメと読み、阿麻乃・弥加津・比女の仮名表記となる。
日・女(比・ツ女)を姫としてしまう事で、「天〔アメ〕のミカジ姫」また「天〔アマ〕のミカツ姫」という名の姫(個人名の如く)になってしまう。こうなると、もはや元の音も意味も分からない。
出雲と尾張は遠く離れてはいるが、この誤りに於いて何故か繋がってる。
[ヲグナ]