神名人名・6-2「王」

[009]
6、アキツキ(2/3)

◇「アキツキ・カツキ

 ンキツキ・ヌキツキ→アキツキ•ヌカツキ。上名のンキツキのンの場所にアが入り、下名のヌキツキがヌカツキに変わる。中心に在る者、偉大なモノ、などを表わす呼称。

 

*「天之御中主神
 何も無かった空間にこの世(天地)が作られ、始めに顕れた一柱の神をアキツキ・ヌカツキという。この音に「天之御・中主」の文字が充てられる。この世(宇宙)の神であり、万物創生の祖神である。

後に分離して、アキツキ(天を司るモノ)と、ヌカツキ(ナカヌシ)から独立したアカツキ(海を司るモノ)の二柱の神になる。陸地はまだ無い。これにより、天をアキ、海をアカ、と言うようになる。

《記》では冒頭に一度登場するだけの神名であり、見方によっては影の薄い神のように思えるが、実は天照大御神が代わりをしているのであって、
天之御アキツミ〕・・・天照大御神 ・・・天皇
と続く根元〔こんもと〕の神なのである。

天地分離したことにより天之御中主という形の名が使えないだけである。天照大御神高御産巣日神の二神で頻繁に使われているが、本来は天之御中主神高御産巣日神のセットである。

 

*「大国主神
 大国主は文字通り大きな国の主〔ヌシ〕である。しかし、この漢字表記が先にあって生まれた名称ではない。元にあるのはアキツキ・ヌカツキという音です。

  ア キ ツキ・ ヌカツキ
  オホキナヌシ・ヌカムヂ
    大 国 主   の 神

接頭語・ア(一音)はアハまたオホの一拍音(二音)になる。キツキの先のキがキンと撥ねたのち、キン→キヌ→キナと移り、ツキがヌシとそれぞれ転化する。

キツキ→キナヌシと転じた音の頭にアが乗って、アキツキ→アハキナヌシとなる。アハキナヌシは長〔おさ〕を表わす呼称だが、ここでは対象がクニの首領なのでキナヌシに国主の字を充てる。

或る時代、或る地域では大国をアキナ(アハキナ)と呼んでいたグループが確かにいた。日本人の耳には何故かアキナという語呂が自然に入ってくるが、二千年の遺伝子記憶に依るものかも知れない。(出雲の「阿国」もオクニではなくアキナだったか)

下名のカツキに付く予唸音・ヌが助詞「の」として働く。

 

*「大穴牟遲神
 王を表わす呼称にはアキツキとアツ・ツツヌキの二種類があり、この名にも二つの成り立ちが考えられる。どちらも有り得るので決め難いが、可能性としては⑴の方が高いのではないか。

 ⑴ アキツキが、→オホキ ンナムチと転じる。アが膨らんでアハになる。キが、キン→キヌ→キナ→キ ンナと膨張転化し、アキ→オホキ ンナの音になる。

  ア キ  ツキ
  ア キナ ツキ
  アハキンナ  ブチ
  オホキ アナ ムヂ
   大   穴  牟遅

ここでの大の字は、オホではなくオホキである。穴の古語はナだが予唸音・ンが付きンナと発音される。後にンが母音アに移って、ンナ→アナという語になる。ツキのツは、ツ→フ→ブ→ム。ツキのキは、キ→チ→ヂ。よってツキ→ムヂになる。

 ⑵ 元の音はア・ツツ・ツキである。ツツに穴(突と同じ)の字を充て、ツキが、→フキ→ブチ→ムヂと転じて牟遲の字を充てるのは ⑴ と同じ。また、ツツ・ツキはツブラキやスベラギなどに移る音でもあるが、この音には地域豪族の意もある。

  ア  ツツ・ツキ
  アハ ツツ・ブキ
  オホ ツツ・ムチ
    大  穴   牟遅

言葉の直接的な意味として、ツツは「動き」や「広がり」をいい、ツキは「〜のモノ」を表わす。

 

*「大己貴命
 《書紀》では「大己貴、此云於褒婀娜武智」〔大己貴、此れをオホアナムチと云う〕と読みを示すが、正確には大〔オホキ〕己〔ンヌ〕貴〔ムチ〕とすべきである。

  ア キ  ツキ
  ア キン   ツキ
  ア キヌ  フキ
  アハキンヌ   ブチ
  オホキウヌ ムチ
   大   己 貴

大の字はオホキと読まなければいけないし、己はンヌ(またウヌ)である。大穴牟遲の字音に引き摺られた読み方がなされているが、この二つの名に関しては、音が違うから表記が違うのである。


*「大名持神
 アハキナ(オホキナ)に大名の字を充てる。ツキが、フキ→ブチ→ムチ→モチと転音して持の字が充てられる。

  ア キン ツキ
  アハキナ  ブキ
  オホキナ  モチ
   大 名  持

十七世紀以降にみる地域の主、大名〔ダイミョウ〕という語の出所は此処かも知れない。


*「大汝
 この表記は言葉の成り立ちを無視して、音だけに対応した形である。

  ア  キ   ツキ
  ア  キン  フキ
  アハ キヌ ブチ
  オホ キナ ムヂ
   大  汝

アハ・キン ツキがオホ・キナムヂと転じるが、キとナの間で切り分け、オホキ・ナムヂとなって、この音に大〔オホキ〕と汝〔ナムヂ〕の字が充てられる。ここではツキがムヂに転じる。


*「大御神
 一般的にはオオ・ミカミと読み慣わすが、本来はオホキツミ・カツキ(大ツ御・神)である。のちにオホキツミからツが落ちたオホキミの音になり、大王の読みとして常用語になる。

  ア キツキ・カツキ
  オホキツミ・カムヂ
   大 ツ御・ 神

良く似た表記の大神はアツ・カツキ(アツは大、カツキは優れた人)であり、大御神とは別の語とみなければなりません。


* 「」の字
大国主の大の字はアやアハ(またオホ)に充てたものだが、それ以外の名(大穴牟遲、大己貴、大名持、大汝、大御神)の場合は、大の一字でアハキまたオホキと読む。「凡」をオホシ(オオシ)と読むのと同様です。

 

◇「ツキ
ツキは、ツがマ行音(ツ→フ→ブ→ム)に移り、キがチに変って、ムチ(牟知、牟智、无知、牟遲)、モチ(持、母知)、などに転じた音(表記)になる。


*「足名椎
 《書紀》では脚摩乳。アキツキ→アキナツキ→アシナツチ(足名椎)。またアシナテチ(足名鉄)といった音(字)も使う。

《記》に「僕者、国神大山津見神之子焉」〈アは、国ツ神・オホヤマツミの子ぞ〉と、自己紹介している。邑の長〔おさ〕、または家の主人。足名椎は王では無いが、或る集団の長(アキツキ)ではあった。

手名椎は、足名椎の足を手に変えたもので、後に作られた名と思われる。
或いは、ツキツキ→ツニツチ→テナツチ、
と転じた語に充てたか。

キツキの中でリーダーはア・キツキ、支援者はツ・キツキ、というのが太古から伝わる人類語の基本である。

 

…[010]に、つづく。