神名人名・2「命〔イノチ〕」

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2、キツキ(人)

①「キツキ」について

 生命体、また生命体と解するモノを表わす基本語がキツキです。太古から使われていた語ですが、転化、省略、膨張、などにより様々な音に姿を変えて生き続ける言葉です。

 

*「生き物
 キツキの頭に※予唸音・ンが付いて、ンキツキと発音されたのち、ンが母音・イに変わり、後ろのキがキン→ミン→モン(モノ)と転じて、ンキ・ツ・キ→イキ・ツ・モノになる。さらにツが略され、イキ・モノ(生き物)という言葉ができます。

※予唸音:基音を発声する直前から出し始める声。

 

*「生と死
 キツキはもう一つのキツキと合体して二個になり、生命体としての初期設定が成る。この「キツキ・キツキ」はイキツキ•イヌチ(キ→イ、ツ→ヌ、キ→チ)となって動き始めますが、ここからイヌチ(命)が欠落すると起動停止となります。

生を終えたキツキの亡骸〔なきがら〕は、キツキの音がシブト(キ→シ、ツ→ブ、キ→ト)と転じる。音がキ(生)からシ(死)へと変わるのである。シブトは後にシビトと発音し死人の字を充てるが、漢字先行の言葉ではなく太古からの日本語音なのです。

魂が去り、体の活動も消え、時が過ぎ肉が朽ち果て、硬く白いものだけが残る。この物体をカツネといいます。これがカブネ、またカボネやカバネの音になる。この「シブトのカブネ」は転じてシカバネ(屍)という語になります。


*「流産
 受精後、ツツキ・ツツカ(成熟・期間)を待たずして流れてしまった胎児もまたキツキですが、二つのキツキ(身ツ霊・心ツ霊)が合体することもなく一個のままで終えてゆくキツキは、転じてヒルコ(キ→ヒ、ツ→ヅ→ル、キ→コ)、或いはミヅコ(キ→ミ、ツ→ヅ、キ→コ)という言葉で呼ばれる。

 

*「男と女
 キの拗音•クィは尊卑に関わりなく使われる音ですが、比較的上位者や良いモノに使われることが多く、一般的には岐や伎の字が充てられる事が多いようです。

男を表わす太古語はキツキが使われますが、先のキがクィと発音され、これがクィ→クォ→ウォ(ヲ)、ツがトに、後ろのキがクォ(コ)と転じて、キツキ→ヲトコ(袁登古)の音になります。女はキツメといい同様にキツがヲトになり、ヲトメ(袁登賣)の音になります。
 キツキ→クオ•ツ•クオ→ウオ•ト•クオ→ヲトコ(男)
 キツメ→クオ•ツ・メ→ウオ・ト•メ →ヲトメ(女)

現代に於いて男女を表わす対語は、オトコ:オンナ(元はオンナゴ)ですが、本来の音では、ヲトコ:ヲトメ、でした。特に若い男女を指す音だったようです。

 

②  キツキ・キツキ

 キツキ•キツキは心身と魂の発想から生まれた呼称ですが、時代と共に使われ方も変わってきて、一つの名称として扱われるようになります。(ここでは先のキツキを上名、後のキツキを下名と呼ぶことにする。)

キツキを二つ並べてキツキ・キツキというのが丁寧な形ですが、これを発音する際、上名下名それぞれの頭に予唸音・ンが付き「ンキツキ・ンキツキ」の音になります。しかし、このままでは少し困ることが起ってしまいます。

ンキツキを二つ続けて言おうとすると、下名のンキツキのンがとても発音しづらい。そこで、当然の事として言い易い形に変えて発声することになります。

このンをヌとしてンキツキ・ヌキツキにすることで、一気に無理なく自然な発声音にすることができます。この事により、下名に予唸音を付ける場合はヌを用います。

ンキツキ・ヌキツキは正式な語音ではありますが、やはり長くて面倒である。そこで通常はキツキ1個であったり、単にキだけで表わすことが多くなります。一方で、更に丁寧な表現にすることもあり、その場合は音を膨張させた名称が使われます。


*「伊邪那岐伊邪那美
 キツキ•キツキの中でも聖なる生命体を表わす語は、キツキの先のキが、キッ→キス→キサと膨らんでキサツキになります。更にキがイに、ツキが→ヌキ→ナキに転じ、キサツキ→イサナキという音になります。

下名のキツキはキツミになったのち、同様に転じてイサナミとなり、ここにイサナキ・イサナミの呼称が作られ、あらゆるモノの原点となる純粋祖神の名となります。第一音が膨張することで予唸音・ンは付きません。

当初は一柱の名だったのでしょうが、“乾坤分かれる” ことに伴って神もまた一対(雌雄)の形に分けられ、上名のイサナキを男神〔ヲツ・カミ〕、下名のイサナミを女神〔メツ・カミ〕と設定しました。清らかを意味する名詞として使う場合はイサキ(いさぎ=潔)という語が使われます。

キ ツキ・キ ツキ
キサヌキ・キサヌミ ⚪︎先のキがキッ→キス→キサ
イサナキ・イサナミ ⚪︎ツが、→ヅ→ヌ→ナ。


*「久比奢母智神
 水に関わる神の一。キツ(水)のツキ(司る神)の意。水(キ)はンキと発音される事も多いが、ここは神なのでクィを使う。当時の発音はクヒだったろう。

 キサ ツキ
 クィサフキ ⚪︎先のキがクィ、ツがフになる。
 クヒサブキ ⚪︎キサ→クィサ→クヒザ
 クヒサムチ ⚪︎ツが、ツ→フ→ブ→ム→モ。
 クヒザモチ(久比奢母智)

◇神世記に並んだ神々の名は、固有の名などではなく、自然界に於ける事象や現象、またその役割をいうのが殆んどです。それは天照大御神須佐之男命に於いても例外でなく、太古の神に「身の名」は有りません。

…をぐな。