19「川淵」「河内」

地名国名[054]___
19、「河内」「川淵」

◇「カフチ」と「カウチ」
 水に面した土地・カツキのうち、水に突き出た地、即ち三方を水に囲まれた陸地をカサキというのに対し、水を囲んだ土地(湾や入江を作る陸地)はカフチ(カハフチ)の音で表します。

また河口に出来た地続きの土地(州)をカウチ(カハウチ)といい、これらを川淵と河内の文字で書き分けるが、原音は同じカツキである。

 

○「川淵」
 難波津の入江を囲む土地をカフチといったのでしょう。淵の字義について字典には、「淵〔エン〕/水が深く澱んだところ」といった説明がなされています。

しかし、日本語のフチは水の際〔キワ〕にある陸地をいい、縁〔フチ〕と同じ語である。カフチを略してフチといい、この音に淵の字を充てるのです。

 世の中は 何か常なる 飛鳥川
 昨日の淵そ 今日は瀬になる 《古今集

この歌の淵と瀬を、字典の字義説明に従い〈昨日は深かった所が今日は浅瀬になっている〉というのが一般的な解釈になっているが、果たして正しいのでしょうか。

飛鳥川下流域は平地を流れるので、大雨が降り水量が増すたび流れのルートが変わる、いわゆる暴れ川であったのでしょう。それゆえ、定まりの無い世の中を、飛鳥川と重ね合わせた歌が多く作られるようになる。

ここでの淵とは地面であり、瀬とは水の流れを意味するセセ(ツツからの転音)です。

「昨日の淵そ、今日は瀬になる」とは、昨日まで陸地だったところが今日は水の流れになっている、という意味です。そもそも深いか浅いか、目視で分かる筈がない。

この歌で云うのは、大雨の後たった一日で明らかに川の形(流域)が変わってしまった、それにより風景すら変貌してしまう。

その事実が衝撃的なのであり、普遍であると思ってる正しさや常識の基準など、何時でも覆るものである、そんな無常観を表しているのでしょう。

 

○「河内」
 河口に出来た広い平地をカワウチやカワチ(音便でコウチ)などの音で呼ぶ。大和川が運んでくる土砂によって、入江は南側から北に向かって徐々に河口州が広がり、時を経るごとに陸地面積が拡大していった。

かつて内海だった所が、いつしか低い土地の中を幾本もの川が流れるという風景に変わっていった。この環境はカハウチの音で呼ばれて河内の字が充てられた。

淵〔フチ〕から内〔ウチ〕へと変わったカワウチ(河内)という地名は、入江の陸地化が進行して生まれた広い扇状地の呼称(表記)と思われます。

河内は川内とも書き、漢音でセンダイと読む地もある。鹿児島の川内はセンダイ、熊本の川内はカワチ。また、仙台、千代、これらの地名は全国にある。音を辿ればカウチに行き着く可能性が高い。

 

ベトナムの北部に大河があり、この川が運んできた土砂によって、東の海に面して広大なデルタ地帯が形成され、その中を幾本かの川が枝分かれして流れている。

その平地の一角にハノイという都市がある。ハノイという音を見ると元はカツキではなかったかと思われる。カツキが、カナイ→ハノイと転化し得る。
ハノイの漢字表記は、河内である。