16-1「キツノ」「アキツノ」

地名国名[035]
16、キツノ〈1/5〉

◇「キツノ」自然土地空間。
 キツノの音には、手が加えられてない無垢な状態の野(土地)といった意味がある。ある程度の広さがあるものの、居住地や耕作地に使われていない。

環境や地質など理由は一様ではないが、利用が為されていない土地をキツノという。


*キツノのキツは様々な音に転ずるが、その地が広ければヒロノ(広野)、平らであればヒラノ(平野)、雑草が茂っていればクサノ(草野)、また北方面にあればキタノ(北野)、などの音(表記)となって呼ばれる。

長閑〔ノドカ〕で行楽地として良いキツノには吉野〔キツノ〕の字が充てられるが、多くの場合は山里か遠地である。

集落からそんなに離れていない平地であるにも関わらず、宅地にも耕地にも使われていない、人にとって役に立たない荒れたキツノは、埋葬地として使われることもある。

 

◇「 アキツノ」清浄な土地空間。
 キツノの頭に接頭語のアが乗り、アキツノという呼称になる。キツノが単に土地空間であるのに対し、アキツノは清らかな土地、或いは霊的な空気に包まれた地域をいう。

アキツノという語に御吉野(アに御、キツに吉)の字が充てられたのだが、何時の頃からかミヨシノ(またミエシノ)と音が変わって読み慣わすようになる。

奈良盆地の南にアキツノ(御吉野)があり、北にアキシノ(秋篠)がある。※此処でのキの音は拗音でクィと発音する。


◇よく似た語に狩場をいうアキノがある。狩猟や、またその収穫物をアキといい、狩りをする野をアキ・ノ、またアキ・ツ・ノという。万葉集などでは安騎野、阿騎乃野、阿紀野、などの字を使う。

アキツノ(御吉野)は、キツノの頭にアが乗った「ア・キツノ」であり、阿騎乃野は、狩場をいう意味の「アキ・の・ノ」です。一見、同じ音なので同一視しがちですが、別物です。

通番[036]につづく。