地名国名[052]
18、カサキ〈6/7〉
◇「花咲(媛)」
基本四単語のうち、カツキという語は“突出したモノ”という原意が有ります。地形でいえば、水面に迫り出した地形もまたカツキといったのでしょう。
このカツキのツがサ行音に移りカサキと成ります。更にこれがカンサキ→ハナサキと転じる。また、頭にキツの音が付いたキツ・カサキが、キヌ・ハナサキ→コノ・ハナのサキ、などの音に移ります。
キツ・カサキ ○基本の音。
キヌ・カンサキ ○キツ→キヌ、カかカンと撥ねる。
クヌ・カナサキ ○キ→クと転じる。
コヌ・ハナサキ ○カ(クァ)がハ(ファ)に。
コノ・ハナのサキ ○ハナサキに「の」が入る。
カサキ近くの集落に美人が住んでいたら、地の名に掛けて、「コノ・ハナのサキ・ヤ・ヒメ(木の花の咲きや媛)」と呼ばれることになるかも知れません。
*邇邇芸命の妻は阿多都比賣といいますが、亦の名を木花之佐久夜毘賣といいました。何処かの海辺の土地に住む、美しい乙女を妻に娶ったのでしょう。
山口県岩国の東沖すぐの所に阿多田島があり、或いは此の島そのものを擬人化した表現とも考えられます。上関の沖に祝島〔イワイシマ〕と長島〔ナガシマ〕があるが、この二島を合わせてイワナガ比賣としたか。
*土地や島を女性に喩える話は、古い日本において珍しい事では有りません。共に命を生む存在だからでしょうか。
◇「花咲(爺)」
或る人を示す時、住吉の叔父貴〔オヂキ〕、上町の叔母〔オバ〕さん、狭山の次右衛門さん、という風にその人が住む地名を合わせて呼ぶ事がよくあった。
カサキに住む人は「カサキ・のキ(人)」になります。後ろのキは人(普通名詞)の意ですが、予唸音・ンが付いて、ンキ→ウチ→オヂと転化、またンキ→オキ→オキナにもなる。ここに個人名、またその人を表す呼び名が入ります。
或る時、カナサキに住む人が何らかの功労を挙げ、沢山の褒美を賜わり話題になった事があったとします。そして、その男は花咲〔ハナサキ〕の叔父〔オヂ〕と呼ばれました。
これが、噺として伝わるうちに叔父〔オヂ〕は翁〔オキナ〕になり「花咲爺さん」と呼ばれるようになる。枯れ木に花を咲かせるエピソードは、花咲の文字からの連想による創作話でしょう。
◇「ハナサキ」
日本は海に囲まれた国であり、多くの人が海に面した土地に暮らしています。崎や岬の字で表される環境の地を、かつてはカサキと言いました。
第一音のカがカンと撥ねてカンサキ、カンがカナと転じてカナサキにもなります。更に、カ(クァ)がハ(ファ)に変わりハナサキの音になる。
全国にあるハナサキという地名はこうして出来ました。この音に「花咲」という綺麗なイメージを持つ字が充てられました。