地名国名[046]___
17、カヤマ〈7/7〉
街の中に、島の字が入った地名を見ても驚かない。昔は海だった可能性があるから。平地なのに、山の字が入った地名は何だ? かつて此処は山だったなど有り得ないのに。
◇「ヤマ」と呼ばれる平地
大阪の堀江(今の大川)の北側に広がる平地には墓地が有ったようだ。それも一ヶ所ではなく、広い範囲で複数カ所あったと思われ、扇町や梅田からは近世のものだが墓石が出土しています。
また、この地域には、神山〔カミヤマ〕、堂山〔ドウヤマ〕(カンヤマ→コウヤマ→ドウヤマ)、茶屋町〔チャヤマチ〕(カヤマ・チ→チャヤマ・チ)、といった埋葬地を連想させる地名がある。
神山や堂山など山の字を使っているが、この地は低地に川が吐き出す砂が溜まって出来た平地であり、自然の山など存在する由もない。
ここで使われる山の字は、全て墓を意味するカヤマが元でしょう。その言葉と環境から、墓域としての歴史の古さが窺えます。
◇《摂津国風土記》には次のような歌があります。
都能久邇乃 那邇波裒利哀能
悲等都婆之 伎美和多良散婆
阿加羅米那世所
津の国の 難波堀江の
一ツ橋 君渡らさば
あからめ為せそ
この歌の、裒利哀〔ホリエ〕、悲等都婆之〔ヒトツバシ〕、などの仮名に、裒〔あつまる〕、哀〔かなしみ〕、悲〔かなしみ〕、などの文字が使われています。
また、アカラメナセソ、については次の意味の何れかが掛かっていると思われます。
- 赤ら目。目を赤くする。
- アカ(水)ら目。涙に濡れる目。
- ゥアカラメ→ワカレメ。この橋が死者との別れめ。
◇「結界」
棺が堀江に架かる一ツ橋を渡って北へと向かう。橋の手前まで見送る知人友人が、その心情を歌ったものでしょう。
(※ここで言う一ツ橋が現在の、どの橋に該当するのか、はっきりしません。天満橋、天神橋、またその周辺でしょうけど…。)
「一ツ橋」には、死者にとって一方通行の意味も併せ持つ。一度渡ると二度と戻っては来れない。
いや、戻ってはいけない。
だが、埋葬に携わる者や立ち会った親族が帰って来る際、橋の途中にあって何があっても振り向いてはならない。
背後から誰かに呼びかけられた気がして、つい返事をしてしまったり、振り向いたりすると、その人に死者の霊が取り憑き、現世にまで付いて来てしまうという。
よって、帰りは橋を完全に渡り切る(此方の岸に着く)までは何があっても、真っ直ぐ前だけを見て、無言でただただ歩きます。
嵐山の渡月橋を渡る葛野の人達にとっては常識だが、難波堀江の一ツ橋もまた同様であった。
アカラメナセソには「脇見をしないで」という解釈もあるらしいが、死者に対し “ 迷わず成仏 ” を願う気持ちと、こちらの岸に戻って来る人達に対しても “よそ見をしないで ” の意が向けられている言葉でしょうか。