神名人名・3-2「神」

[004]
3、カツキ〈2/2〉

①「カミ」という音

 神は何故カミというのかについて、本居宣長は「 迦微〔かみ〕と申す名義は未だ思い得ず 」と正直にいい、「 舊く説ることども皆あたらず 」と諸説に納得しない。

語源説として、「カガミル(赧見)、或はアカミ(明見)。《和訓栞》」「霊妙〔かび〕。(平田篤胤)」「葦牙の牙〔かび〕。(山本信哉)」「隠身〔かくれみ〕の略。(斎藤彦麿)」「噛・醸の転化。(大国隆正)」「香・蒸・幽と、実・身の二語の合体。(堀秀成)」など様々あるが、宣長が云うように “ 皆あたらず ” である。

 

◇カミという音は、カツキが元にあるのは間違いの無いところです。ただ、その転化ルートは一つではないかも知れない。可能性を挙げてみると、次の様なものが考えられます。

ⅰ、カツキ→カブチ→カムヂ→カム→カミ。
*「カツ」が「カミ」になる。
カムヂのヂはキから転じた音なのでモノの意であり「カムのヂ」といった認識で使われ、いつしかヂの音は省略されてカムのみになる。

名詞は末音がイ列音になることが多いので、カムがカミと転じるのは不思議ではない。一般的に使うカミはこの音である可能性が大きい。 (※ここでの「ツ」は、ツ→フ→ブ→ム、と移る。)

 

ⅱ、カツキ→カンブキ→カムブト→カミブト
*「カ」が「カミ」になる。
第一音のカがカン と撥ねて発音されたのち、カン →カム→カミ、と転音し二音の語になる。カの膨張パターンによる二音語である。

神主という語は、カツキ(番兵)がカムヌシ、と転じた音に充てられただけの表記であり、“神〔カミ〕の主〔アルヂ〕” の意からできた呼称ではない。

 

ⅲ、カツキ→カブイ→カムイ→カミ。
*「カムイ」が「カミ」になる。
アイヌ語のカムイは神の意として扱われる。その語源はカツキであったろうことは疑いようが無い。ツキがムイに転じ、さらにムィ(拗音化)→ミ(直音化)になる。

※魂〔タマシイ〕の古語はマツキといいますが、沖縄ではマブイの音になる。これはカツキがカブイになるのと同様、マツキ→マブイの転化です。ただし、マツキがマミにはならない。

 


②「絶対的存在」のカツキ

人間の口から発せられる言語音は、時が移ると共に徐々に変わってゆく。地域が違えば音の変化方向がさらに離れてゆくことになる。

超越した絶対的真理、人智の及ばない普遍的法則、これらを表わすカツキの音も人類が移動した先々で独自の言葉となります。

 カツキ→カブチ→カムヂ→カミヂ(神)
    →ハツキ→ホツキ→ホトケ(仏)
    →カフキ→カブイ→カムイ(kamui)
    →カツト→コツト→ゴット(god)

 

◇混沌から秩序や安定を作り出す存在。また、その秩序を破壊する存在。人類はこれらを共にカツキと呼んできました。

物質世界とは一部が欠けた輪の様なものであり、欠けた端から構築が始まり、もう一方の端から破壊が進んでゆく。この欠けている部分こそが実は宇宙を作る主体であって、秩序が作られた安定状態は一瞬でしかない。

にも関わらず、人はこれを永遠であって欲しいと願い、不変であると信じているに過ぎない。人は意識の奥に生じるこれら恐怖と畏敬の対象物を崇め、そして祈る事しか出来ないのです。

人類は、それをそれぞれの言葉で神と呼びました。

 

「カツキ」〈2/2〉 …ヲグナ。